結構な腕前で!
 洗い物を終えて茶室に戻ってくると、せとかだけが残っていた。

「終わりましたか」

 火鉢に蓋をして火を落としながら、せとかが言う。

「掃除はしておきましたから、着替えてらっしゃい」

「あ、ありがとうございます」

 慌てて萌実は、再び廊下に出て着替え用の部屋に入った。
 もしかして、待っていてくれたのだろうか。
 わたわたと着替えて茶室に戻ると、せとかも制服に着替えていた。

「帰りますか」

「は、はい」

 外に出ると、微妙に暗くなっているため、昼間よりもずっと涼しい。

「ちょっと遅くなりましたね。こういう時間になるのは避けたほうが良かったんですが。日が落ちてしまうと、また別の意味で危険ですし」

「あのぅ。それは詳しく聞かないほうがいい類の話……ですよね」

 ここが古戦場跡だったとか、聞いた後ではそれ系の話しか思い浮かばない。
 しかも魔が普通に出現する山なのだ。

 せとかの少し後ろからついて行きながら、萌実は恐る恐る聞いてみた。
 すると、せとかは萌実を見、あはは、と笑った。
 いきなりな笑みに、萌実は今しがた感じていた周りの不気味さを、綺麗さっぱり忘れてしまう。
 さらに。

「大丈夫ですよ。僕がいますし」

 その笑みのまま、こんなセリフを吐く。
 こういう展開を期待していた! と萌実は心の中で、力強くガッツポーズをした。

「せとか先輩も、人が苦手には見えませんよ」

 萌実が言うと、せとかは、ん、と一瞬黙り、ああ、と思い出したように頷いた。

「ああ……。苦手、ではないんですけど、せとみのように、誰にでも気安く話せるわけではないですね。何かよく言われるんですけど、存在感が薄いらしくて。お蔭で部活動紹介のときも、わざわざ小道場を借りたのに閑古鳥でした」
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