結構な腕前で!
「あ、あっちのほうの校舎の、畳の部屋ですか」

 やはり紹介のときは、あそこにいたのだ。

「そういえば、南野さんは何故茶道部に? 茶道の経験があったわけでもなさそうですし」

「あ、えっと。あの、実は私、中学のときから先輩のことは知ってて……」

 答えながら、萌実ははた、と口ごもった。
 これは下手に言うと今後の部活動に響くのではないか?
 告白めいているのではないだろうか。

「え? 僕を知ってたんですか?」

 案の定、せとかが若干驚いた顔で萌実を見る。
 あう、どう誤魔化そうか、と萌実は焦ったが、せとかはすぐに前を向いた。
 そしてぽつりと続ける。

「……珍しいですね」

 いやその反応、おかしいだろ、と思わず萌実は心の中で突っ込んだ。
 だが深読みはしなかったようだ。

「同じクラスでも、僕を知ってる人間がどれほどいるか……」

 どれだけ存在感がないんだ。
 何か可哀想になってくる。

「そんなことないですよ。私のように、ちゃんとせとか先輩のことを昔から知ってる人もいるんです」

 良い感じにスルーだったのに、また自ら蒸し返してしまった、と思ったが、どうもせとかの思考は普通と違うようだ。
 やはり何ら深読みすることなく、せとかは、そうですね、と呟いた。

「家族以外でしっかり僕の存在を認識してるのって、はるかとはるみぐらいなものだと思ってました」

 言い過ぎだろう。
 だがそれは、他人からの目を全く気にしないせとかの性格によるところも大きいのだと思う。

 周りがせとかを認識しない、というよりも強く、せとかが周りを認識していない。
 クラスの人間も、せとかのほうこそ覚えていないのではないか。

---だとしたら、そこに私の存在が入り込めたってことだけでも大きな進歩だよね---

 何となくいろいろ残念なところも発見したが、やはりせとか先輩への気持ちは変わらない! と、萌実はぼーっと横を歩くせとかを密かに見上げるのであった。
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