結構な腕前で!
「あわわわ……。あ、あのっせせ、先輩のことは中学の頃から存じ上げておりまして。あの、あの。わ、わたくし、南野 萌実(みなみの もえみ)と申しますっ!」

 がばっと物凄い勢いで頭を下げる。
 しばしそのままでいると、小さくくすくす、と笑い声が届いた。

「あ、ごめんごめん。そうなんだ? まぁ俺、ちょっとした有名人だからね。ところで萌実ちゃん? こんなところで何やってんの」

 これが普通の男子であれば、やけに馴れ馴れしい自意識過剰と引くかもしれない。
 だが爽やかな笑顔で言われると、そんなマイナスな感情は湧かないから不思議だ。

「あのっ。せ、先輩が茶道部の部長だって聞いて。わ、私、入部希望ですっ!」

 ぱっと持っていた入部届を差し出す。

「へー、物好きだねぇ。体力には自信あり?」

 萌実の入部届を受け取り、先輩は物珍しそうに用紙と萌実を交互に見た。
 ちょっと萌実が怪訝な顔になる。

 先輩、こんな軽い人だったかな……。
 だが目の前にいるのは、間違いなく憧れの先輩だ。

 この整ったお顔。
 さらさらの黒髪。
 ああ、本当に北条先輩と話してるんだー、と幸せに浸っていると、いきなり先輩は背を向けた。

「部室はここを真っ直ぐ上がると早いよ。ちょっとキツいかもだけど、入部しようってぐらいだったら大丈夫だよね」

 すぐ横の茂みを指して言う。
 ……道がないんですけど。

「目印は付いてるから大丈夫だよ。じゃあ頑張ってね。期待してるよ、萌実ちゃん」

「あっ。ちょ、ちょっと……」

 慌てる萌実をウインクで悩殺し、先輩はとっとと茂みに飛び込んだ。
 一瞬で姿が見えなくなる。

「ま、待ってくださぁ~いっ!」

 ぼーっとなっていたが、はた、と我に返ると、萌実も慌てて茂みに飛び込んだ。
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