結構な腕前で!
「あの壺は、僕らにはなかなか扱えないんです。南野さんは多分扱えると思いますけど」

「桃だから?」

 萌実が言うと、せとかは小さく頷いた。

「多分南野さんは、壺を介さないでも魔を祓えますよ。最強ですから」

「そうなんですか」

「一人だから、余計強いんでしょうね」

 なるほど。
 北条家と橘家は、それぞれ双子だから力が二分されたということか。

「せとか先輩たちは何となくわかりますけど、橘先輩たちは、二人の力に違いはないように思いますが?」

「僕らのように、明らかな違いはないんです。単に、強さの差……でしょうかね。それも僅かですよ。僕のように、やたらと強い力があっても、そうそう使えないんです。身体の負担が半端ないですからね。女子だとそれこそ大変でしょう」

「なるほど」

 あんまり強くないから、さすがのせとみも気を遣っているのだろうか。
 いやいや、だったら入部したての慣れない新入部員だってちゃんと守れよ! と内心憤慨する。
 やはりせとみの行動は納得できない。

「あ」

 いろいろ考えて全く周りを見ていなかった萌実が、ふと聞こえた声に顔を上げると、少し大きめの煙が、今しも萌実に食らいつこうと迫って来ていた。

「菓子きりを使いましょう」

 せとかが言い、素早く萌実の手首を握る。

「菓子きりだけしっかり持って。腕の力は抜いてください」

 せとかに近付かれると、どうしても固くなる身体から、萌実は必死で力を抜いた。
 意識して力を抜く、ということは、なかなか難しい。

 何となく力業で、せとかは萌実の手首を掴んだまま、菓子きりで魔の少し下を斬り裂いた。
 小麦粉の袋を斬り裂いたように、ぶわ、とそこから煙が飛び散る。
 思わず萌実は、顔を背けた。
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