結構な腕前で!
「南野さんの武器は、これでしたね」

「はい。それが一番武器っぽいかな、と」

 言いつつ萌実も菓子きりを取り出した。

「まぁ……一番刃物に近いですしね。でも如何せん小さい。一本ではとても魔は倒せません。しかもかなりの距離まで近付く必要があります。それを避けるためには、何本か一気に投げるしかない」

 せとかが壁際にいた小さな煙に向かって、さっと手を払う。
 数本の菓子きりが空を切り、煙に突き刺さった。

「この本数では、あれぐらいが限度でしょうね」

 萌実もせとかに倣って、さっと菓子きりを持った手を払ってみる。
 が、萌実の手を離れた菓子きりは、明後日の方向にへろへろと飛んだだけだった。

「そんなちんけな武器で倒せるかよ」

 文字通り飛んできたせとみが、地に足がつくと同時に扇を振るう。
 先程の小さな煙は、扇のクリーンヒットに、見事に吹っ飛ばされた。

「攻撃ってのぁ、こうやるんだよ」

 とん、と扇で己の肩を叩き、せとみがにやりと笑った。

「……まぁ最低あれぐらいの長さがあったほうが、南野さんも安心でしょうが」

「長さが大事なんだったら柄杓にしたら?」

「一番長いわよ?」

「「結構叩くと痛いしね~」」

 それは萌実も考えた。
 柄が細く、若干頼りないかもしれないが、振り回すのには柄杓が一番だ。
 せとかも部室ではよく柄杓で煙の相手をしている。

「でも携帯できないし」

 そういうことだ。
 せとかのように釜の前が定位置であれば柄杓もすぐ近くにあるが、生憎萌実はまだ茶を点てるのもままならない。
 茶を点てないと、柄杓は必要ないので傍にはないのだ。

「ま、大方はせとみが片付けてくれるから大丈夫ですよ。とりあえず、菓子きりを刺せるようにはなりましょうね」

 せとかが萌実の手を持って、菓子きりの構え方から投げ方を教えてくれる。
 使い方は大幅に間違っているが、本来こういう触れ合いを期待していたのだ。
 それだけでも茶道部に入った甲斐があったと、萌実は呑気に考えるのであった。
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