結構な腕前で!
第七章
 ある日の昼休み、萌実は図書室に向かった。
 ちょっとは自分でも茶道について勉強しようと思ったのだが、はたしてあの茶道部に普通の茶道が通用するだろうか。

---でも一応先輩のお家はちゃんとした茶道の家元のようだし。それに前に教えて貰った、ちょっと大きい菓子きりについても、どんなのがあるのか興味あるし---

 がらら、と図書室の引き戸を開けると、独特の匂いが鼻をくすぐる。
 高校ともなれば、あまり図書室というところは需要がないのか、人はほとんどいない。

---でも綺麗な部屋だな。さすがマンモス校---

 広い閲覧スペースの奥に、本棚が続いている。
 何気なく受付カウンターに目をやった萌実は、目を見開いた。
 カウンターに座っているのは、せとかではないか。

「先輩」

 人はいないが、それだけにしんとしているし、元々図書室はうるさくするところではない。
 そろそろとカウンターに近付き、萌実は小声で声を掛けた。
 ややあってから、ゆっくりせとかが顔を上げる。

「先輩、どうしたんですか」

「図書委員なもので」

 さらっと答え、せとかは読んでいた本に視線を落とした。
 何だかたちまち景色に溶け込む。
 これが皆が言うところの、『存在感がない』ということか。

 萌実はせとかのことが好きだから、すぐに気付いたのだ。
 普通に入ってきたら、本を借りるときまでカウンターに人がいることに気付かないのではないか?

---でも! それでいいもんね。先輩は目立たなくていい。先輩だって眼鏡取って少し前髪流したら格好良いんだから---

 長めの髪はいつも括っているが、部活動以外では眼鏡の上にこれまた長めの前髪がかかって、顔がよく見えない。
 そうそう喋る人でもなく静かなので、暗い印象だ。
 ここが図書室ということもあって、暗さはますます増しているような。
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