結構な腕前で!
「昼休みは、もうそうそうないですよ。本を探してきたらどうですか?」

 不意にせとかが顔を上げて、萌実に言った。
 あ、と萌実は本棚を振り返り、各棚の側面に書かれたジャンルを見て行った。

「何を探してるんです?」

 棚を見たまま動かない萌実に、再びせとかが顔を上げた。

「えっと。あの、茶道の道具とか……。前に先輩が教えてくれた、ちょっと大きめの菓子きりとか、どんなのかなって」

 萌実が言うと、せとかは読んでいた本を、ぽん、と閉じて立ち上がった。

「茶道具ですか。専門書の類はこっちですかね。そう人気のあるような本ではないから、倉庫にしまわれてるかも……」

 独り言のように言いながら、せとかは部屋の奥のほうへと進む。
 戸棚の間にちらほらいた人が、ぎょっとしてせとかを見た。
 どうやら本当に存在に気付かれていなかったらしい。
 カウンターは入ってすぐのところなのだが。

---これって最早才能よねぇ。忍者になれるわ---

 本棚を見ながら進むせとかの背を眺めながら、萌実は密かに思った。
 現代社会では、忍ぶことなどそうないのが残念だ。

「ふむ。やっぱり倉庫ですね」

 部屋の奥まで行き、せとかが隅にあるドアに目をやりながら言う。

「とはいえ、もう昼休みも終わりですし。放課後でいいですか?」

「あ、はい」

 じゃあ、と踵を返したせとかが、ふと思いついたように振り返った。

「そうだ。今日は僕が茶菓子を買いに行くんです。ついでに付き合ってくれますか?」

 うーわー! 先輩から『付き合って』だって! と一人浮かれる萌実だったが、残念ながらそういう意味ではないのもわかっている。
 いつかそういう意味で言わせてやる、と心の中で思い、萌実は大きく頷いた。
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