結構な腕前で!
「でもしょっちゅう魔に攻め入られて、お稽古どころじゃないですもん」

 そうなのだ。
 静かに茶を嗜む、という余裕は、あの部活にはない。

 せとかは魔が現れてもあまり気にせず平然と茶を点てるが、教えて貰いつつでないとできない者は、途中で中断されるとわからなくなる。
 茶道の手順は細かいのだ。

 萌実が言うと、せとかは少し笑った。

「なるほど。言われてみれば、そうかもしれませんね」

 滅多に見られないせとかの笑みだ。
 それだけで嬉しくなる。
 多分クラスメイトなどは見たこともないだろう。
 あるとすれば、せとみとはるかたち。

「でも茶道に興味を持ってくれるのはありがたいですね」

 言いながら、せとかは校門を出て商店街のほうに歩いて行く。
 そういえば買い物に行くんだった、と、萌実はせとかの後について行った。

 せとかはしばらく商店街を歩き、中程を過ぎた辺りの脇道に入った。
 そこは古い町並みが続く、不思議な一画だ。

「こんなところがあったんですねぇ。地元なのに、全然知らなかった」

「脇道に入るのは、職人とか僕らのような家の人でしょうね。一般人が使うようなものではないですから」

 せとかの説明の通り、脇道に並んでいる店は古めかしく、一見店だか家だかわからない。
 いかにも昔ながらの職人御用達の店のようだ。

「でも今日のお買い物はお菓子ですよね? お菓子もここにあるんですか?」

「ええ。老舗なので、美味しいんです。茶道用に作ってるから、季節の練り切りもありますし。練り切りは当たり外れがありますからね。外すとお茶にも合わないし、悲劇ですよ」

 それは家元ならではの磨かれた感覚なのでは。
 何の知識もない萌実には、練り切りの良し悪しなどわからないような気がする。
< 67 / 397 >

この作品をシェア

pagetop