結構な腕前で!
 やがてせとかは一軒の和菓子屋さんに入った。

「あ、いらっしゃい」

 ショーケースの向こうから、着物の店員さんが声を掛けてくる。
 顔見知りのようだ。
 毎日同じところで買っているのなら、そりゃ覚えるだろうが。

「南野さん、どれがいいですか?」

 せとかがケースの中に並ぶ和菓子を物色しながら聞く。

「う~ん……。いざ聞かれると、よくわかりません。こんな本格的な和菓子、そう食べる機会もないので」

 今どきの女子高生が、本格和菓子を口にすることはあまりないものだ。
 練り切りだって、部活で初めて食べたぐらいである。

「そういうもんですか」

 その辺り、せとかにはわからない。
 元々茶道家の息子である。
 和菓子など普通に溢れていただろう。

「でも綺麗ですねぇ」

 ケースの中は季節の花などを模った練り切りが上品に飾られ、目を奪う。

「そうですね。これぞ日本の職人技ですよ」

 頷き、せとかは季節の練り切りを五つと、あんみつを五つ買った。

「せとみはなかなか好き嫌いが激しくて困ります」

 帰り道、せとかがため息をつきつつぼやいた。

「茶菓子が気に入らないと、とっとと帰りますしね」

「そこは双子でもわからないもんですか」

「僕は何でもいいので」

 微妙な表現だ。
 そう言われると、茶菓子だけでなく、全てにおいて拘りがないようにも聞こえる。
 ただでさえぼーっとしているので、なおさら拘りがあるようにも見えないのだ。
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