結構な腕前で!
 それから一時間後。
 へろへろになった萌実が、ようやく茶室に辿り着いた。

「せ、せんぱぁ~い……」

 どた、と入り口に倒れ込むと、いい香りに包まれる。

「あー……。えっと、南野 萌実さん、でしたっけ」

 聞き覚えのある低めの声に顔を上げれば、きっちりと着物を着た先輩が、しゅんしゅんと音を立てる茶釜の前に座っていた。

「ようこそ、茶道部へ。部長の北条 せとかです」

 そのまま身体を萌実に向けて、ぺこりと頭を下げる。

「あ、えっと。南野……萌実です」

 さっき(といっても一時間前だが)自己紹介したし、やけに親しく名前で呼んでたのにな、と思いつつ、とりあえず萌実も頭を下げた。

 ちょっと雰囲気も違う?
 あ、着物着てるからかな。

 髪も括ってるし……と何となく萌実はせとかを観察した。

「とりあえず、お茶菓子でもどうぞ」

 促され、萌実は靴を脱いで部屋に入り、茶菓子の入った皿の前に座った。

「茶道は初めて?」

 茶碗に柄杓で湯を入れながら、せとかが聞く。

「はい」

「ふーん。じゃあまぁ今は気にせずに食べて貰っていいから」

 どうぞ、と手で菓子を促される。
 どうぞ、と言われても、どこに取ればいいんだか。

 茶菓子は大きめの器に入っている。
 菜箸のようなお箸がついているが、これで食べるわけではないだろう。
 そもそもこの器の中身全部が一人分なわけはない。
< 7 / 397 >

この作品をシェア

pagetop