結構な腕前で!
「入部届を出したとき。部室に行く途中で、せとみ先輩に会ったんです。そのときはまだ先輩が双子だってことも知らなかったし、てっきりせとか先輩だと思って。でも凄く……何というか、ナンパな感じで。イメージと違ってちょっと引きました」

「ああ、そういえば、せとみが一旦出て行ったと思ったら、入部届だけ持って帰ってきましたねぇ」

 校門を潜り、部室のある裏山に向かいながら、せとかが言う。

「そういえば、南野さんは中学から僕を知ってたって言ってましたね。でも双子だとは知らなかったんでしょう? だったらその『南野さんの知ってる先輩』は、せとみかもしれないんじゃないですか?」

 ふと、せとかが思いついたように萌実を見た。
 山道を歩きながら、萌実は自信ありげに首を振る。

「違いますね。私が知ったのは、せとか先輩です」

「何故。中学のときは、確か髪型も同じだったと思いますよ。校則もありましたし。喋ったことがないなら、多分わからないと思いますが」

「確かに遠目で見たことがあるだけでしたけど、あれはせとか先輩ですよ。雰囲気がね」

 親しく喋ることができるようになってわかったのだ。
 せとかとせとみは、知れば知るほど違いがわかる。
 まとう空気からして全く違うのだ。

 言うなれば、せとかのほうが掴み処がない。
 わかりにくいのだ。
 ぼーっとして、何も考えてないように見えるからだろうか。

「その前に、僕の存在に気付いただけでも大したものです」

「……それは言い過ぎじゃないですかね」

 中等部のとき、せとかは生徒会長だったのだ。
 目に触れる機会も多い。
 それでも存在を知らない人がいるというのが、むしろ凄いことだが。

「会長はせとみだと思ってる人が大半なんですよ」

「そうだとしても! 大丈夫です! 私はちゃんと、せとか先輩の存在を認識して、そのためにここに入ったんですから!」

 せとかの自虐(?)に若干切れ、萌実は力強く言った。
 が、その後で、あわわ、と口を押さえる。
 ヤバいことを口走ってしまった。
 何と言って誤魔化そうか、と焦っていると、先にせとかが首を傾げつつ呟いた。

「……つくづく珍しい人ですね」

 その顔は、いつものようにぼーっとしていて、照れているとか、そういった萌実の発言の意味を理解した感じは微塵もない。
 良かった……のか? と複雑な思いで、萌実はせとかの少し後ろを歩いて行った。
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