結構な腕前で!
 背後で密かにため息をつく萌実を気にするでもなく、せとかは、ヤッと短く気合いを発すると、畳を蹴った。
 煙の眼前に迫り、剣のように柄杓を振るう。
 ずばん、と円柱状の煙が両断された。

「やった~」

「せとかもやるわね~」

「「長い得物のほうが、綺麗に切れて後が楽だわ~」」

 双子がぱちぱちと手を叩きながら、畳に落ちた煙の塊を壺に回収する。

「せとみももうちょっと大きい得物を持てばいいのに」

「小さい扇で細切れにしちゃうしね」

「「後が大変だっつーの」」

 文句を言うわりに、せとかの斬った煙の塊は大きすぎるのか壺にぎゅうぎゅう押し込めないと入らない。
 細切れのほうがいいのではないだろうか。
 業を煮やしたはるかが、いきなり拳を握った。

「はっ!!」

 掛け声と共に、握り拳を壺に突っ込む。
 負け出ていた煙が、拳に砕かれて中に落ちた。

「……」

 少し驚いて、萌実ははるかを見た。
 考えてみれば、はるかたちの攻撃を見たのは初めてかもしれない。
 萌実がわたわたしているときに戦っていて、気付いていないだけかもしれないが。
 まさか素手の鉄拳を使うとは。

「あ、あの橘先輩。大丈夫なんですか?」

「え? 何が?」

 無事煙を回収でき、はるかは満足そうな表情で首を傾げた。
 漆黒の髪がさらりと流れ、きょとんとした大きな目が萌実を捉える。
 この華奢な身体から、壺を割る勢いの鉄拳が繰り出されたのかと、萌実は思わずまじまじとはるかを見た。
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