結構な腕前で!
 器の前で固まっている萌実の前で、せとかは慣れた手つきで茶を点て始めた。
 しゃくしゃくしゃく、と音を立て、茶碗の中に泡が立つ。

 それを、とん、と萌実の前に置き、せとかは初めて萌実を見た。
 あれ? と少し、萌実はせとかを見た。

 何か、やっぱりさっきと雰囲気が違う?

「……あ。そっか、懐紙とかないですよね」

 ようやく気付いたように、せとかは懐から懐紙を出した。
 それを、束のまま萌実に渡す。

「茶菓子はこれに取るんです。箸の持ち方は……」

 言いつつせとかは立ち上がって、萌実の後ろに回った。

「左手で箸を持って、右手をこう、滑らして……」

 言いながら、せとかは萌実の手を後ろから持って教えてくれる。
 ひええぇぇっと、萌実はまた鼻血を噴きそうになった。

「簡単でしょう? ……どうぞ」

 はた、と気付けば、せとかは再び釜の前に戻っている。

「い、いただきます」

 ぎくしゃくと教えて貰った通りに茶菓子を取り、これまた渡された菓子きりで、切って口に運ぶ。
 しん、と沈黙の落ちる茶室に、しゅんしゅんという音だけが響いた。

「あの。何でこんなところに部室があるんですか?」

 沈黙に耐えられず、萌実は前に座るせとかに聞いた。
 前にいるとはいっても、身体は横を向いているので対峙しているわけではないのだが、この漲る緊張感は耐えられない。

 だがそう思っているのは萌実だけのようだ。
 せとかは、どこかぼーっとしたまま、静かに座っている。
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