結構な腕前で!
「せ、先輩……」

 最近は解放日と解放日の間に道場を使うこともなかったので、一週間フルの状態だ。
 萌実は不安になって背後を振り返った。

「大丈夫ですよ。失敗しても、ちゃんと助けます」

 至近距離で、せとかが言う。
 同じ顔で同じようなことを言っても、せとみとは違う。

 どきどきするが、せとかに言われると安心できる。
 信頼って大事だ、とつくづく思う。

 そうこうしているうちに、扉が開いた。

「行きますよ」

 ぐ、とせとかが、握った萌実の手に力を入れた。
 同時に握られている手の甲から手の平に、熱が集まるように感じた。

「えっ……あ、熱っ……」

 道場のほうに向けた手の平が、燃えるように熱くなる。
 さらに驚いている萌実に向かって、道場に充満していた煙が、一気に迫ってきた。

「ひっ!」

 息を呑んだ萌実の耳元で、せとかの声がした。

「何も考えるな」

 その一瞬で、ふ、と恐怖が霧散する。
 いつもと違う雰囲気のせとかだ。
 いつもの柔らかな物腰の言い回しではない。

---ああっ、きっと今は、きりっとしてるんだ。あの顔でこの物言い! 堪らん!---

 狙ったわけではないだろうに、萌実の頭からは見事に迫りくる魔の恐怖など抜け落ち、思考はどうでもいいことにシフトする。
 せとかに思考全部持っていかれた瞬間、かっと手が火を噴くように、さらに熱くなった。

「粉砕!」

 せとかの声が響き、萌実の手の平から、眩い光が放たれる。
 圧力を感じ、萌実は後ろに倒れそうになった。
 が、すぐ背後にいるせとかが支えてくれる。

「……」

 強い光でちかちかする目が治まってくると、皆目の前の光景に目を見開いた。
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