結構な腕前で!
「山の中のほうが、静かかもしれませんけど……」

 重ねて言うと、やっとせとかは萌実を見た。

「静か……であればいいんですけどねぇ」

 答えになってるんだか、なってないんだか。
 さっきと全然違うじゃん? と内心狼狽えながら、萌実は話題を探した。

「ところで南野さん」

 必死で話題を探していた萌実に、せとかが口を開いた。

「何で茶道部に入ろうと?」

「えっ……。あの、さっきも言いましたけど、私、中学の頃から先輩を知ってて……。その、先輩が茶道部だって知って、興味を持ったっていうか」

「聞きましたっけ?」

「え? あの、さっき部室教えてくれたじゃないですか」

「……」

 落ちる沈黙。
 え、まさか覚えてないとか?

 そんなことはあり得ないが、何かこのせとかの纏う、ぼけーっとした雰囲気だと、あながちあり得なくもないかも、と萌実はいろいろ心配になった。

 憧れの先輩は、こんなぼーっとした人だったろうか。
 いや、静かな人ではあった。
 どこか不思議な感じがあったのも事実だ。

 その感じは、今この目の前でぼーっとしている人に通じる。
 確かに憧れの北条先輩はこの人だ。

 だが、そう考えると、あの山で会った先輩のほうが雰囲気が違う?
 中学のときは、ただ見ているだけだったから、喋ったら違うのかもしれないが、ウインクなどかます人ではないような。

「せ、先輩。あの、いきなりですけど、ウインクしてみてくれませんか?」

「はい?」
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