結構な腕前で!
「職務怠慢ですよ! 結界か餌か、どちらかだけでも完璧にやらないでどうするんです!」

 ひいぃぃっとはるかだけでなく萌実までが震え上がる。
 着物姿でびしっと正座し怒鳴られるというのは、なかなかない状況だ。
 何だかいかにも『説教されてます』と感じてしまう。

「ご、ごめんなさい!」

「謝って済む問題ではありません。現に一般生徒に被害が出てるんです。このままでは例の彼女が乗り込んでくる事態になるかもしれません。すぐにでも動いたらどうです?」

 冷たく言うせとかに、はるかが外に駆け出していく。
 これはまた、意外な一面だ。
 何か若干気になる部分があったようにも思うが、萌実は呆気に取られて、ただせとかをぽかんと見つめた。
 そんな萌実の後ろから、せとみがずいっと身を乗り出す。

「そこまで言うか? はるかだって調子の悪いときだってあるだろ。仕方ないじゃないか」

「調子が悪かろうが、自分に課せられた使命ぐらいこなして貰わないと困ります。大体一気にやろうとするから疲れるんですよ。調子が悪いのであれば、毎日少しずつやればいい。いい加減にやって放っておくのは許しません」

 気遣いなど一切ないが、正論だ。
 せとみも黙ったが、せとかを睨みつけると、外に出て行った。
 はるかを追ったのだろう。
 二人が出ていくと、しん、と部屋に沈黙が落ちた。

「え、えっと……。あのぉ。餌って……」

 重苦しい空気に耐え兼ね、萌実は何となく、はるみとせとかの間に視線を彷徨わせて言った。
 はるみは小さくなっているし、せとかは恐ろしい。
 今はどちらに話しかけていいものやらわからなかったのだ。

「……私たちの気と、灰を使って、道場の中央に魔をおびき寄せる魔方陣を描いておくの。ホウ酸団子みたいなものね」

「へー。でもホウ酸団子なら、食べたらそれで退治できますけどね」

 なるほど、はるみの例えに頷いた萌実だったが、いきなりぶは、と音がした。
 見るとせとかが吹き出している。
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