結構な腕前で!
「う~ん。もしかして、あっちの世界に取り込まれちゃうとか?」

 怖い想像を好き勝手に言い、はるみはぶるぶると震える。
 実際捕まえられた萌実は、こんなこと聞かされたら堪ったものではないのだが。

「この辺の魔に、そんな力、あるわけないだろ」

 意外にせとみが、呆れたように言った。

「捕まえるのは攻撃の基本だぜ。捕まえた上で攻撃を仕掛けたら防ぎようがないだろ」

 当然のように言うが、そういうせとみも煙を捕まえたことなどないのだが。

「奴らはいろんなところから湧いて出るからな。例えば今ここで、萌実ちゃんが畳から湧き出た魔に捕まった場合、天井から湧き出た別の魔に、為す術もなく攻撃されるってわけだ」

「確かにそうなると、防ぎようがないわね。天井からのやつが大きかったら、萌実さん真っ二つかも」

 何故例えに萌実を採用するのだ。
 一人暗くなっていると、またも足首に何かが触れた。

「ひぃっ!!」

 話題が話題なだけに、萌実は足を抱えて大きく飛び退った。

「あ、すみません」

 足を抱えたまま小さくなる萌実だったが、先ほど足首に触れたのはせとかだったらしい。

「せとみの言う通り、魔にそんな力はないとは思いますが。念のため、ちょっと診ておいたほうがいいかと」

 言いつつ、ずりずりと萌実に近付くと、がしっと足首を掴む。
 さっきの魔のほうが、掴み方は優しかったような。
 しかもせとかはそのまま手を引いて、萌実を自分のほうへ引き寄せた。

「ふむ。見た感じは何ともないようですね。痛むとかはないですか?」

 煙の力よりも、せとか先輩の力のほうが強いので、今痛いです、と言いたいところを呑み込み、萌実はこくこくと首を縦に振った。

「妙な感じもついてないし、大丈夫でしょう」

 ようやくせとかが手を離す。
 足首を引っ張られたのでほとんど畳に倒れていた萌実は、何だか打ちひしがれて、のろのろと身体を起こした。

 袴だからいいようなものの、制服だったらえらいことだ。
 女子の素足を掴んでおいて、何の反応もないなんて、ともやもや思っていた萌実の視界の端に、またももやんと煙が映る。

「あーもぅ! 鬱陶しい!」

 ばこーん! と容赦なく畳を平手で打つ。
 八つ当たりの平手打ちは、生まれたての煙を見事にぺしゃんこにした。
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