初恋のキミは最愛ヒーロー

「あの一件から、俺は…てめぇに怒りと恨みしか抱いてねぇよ、ずっと」


憎悪に満ちた冷たい声。


壱夜くんは何も言葉を返さない。


お互い無言のままでいた時だった。


「お前ら、ここで何してるんだ?」


緊迫した空気を一変させたのは、大きな本を数冊抱えている日本史担当の先生。


授業で使用したと思われる資料を戻しに来たみたいだ。


「あ、いえ……担任の先生に資料を返却してくるように頼まれたので、みんなで分担して持ってきたところです」


紅月くんは、ニコリと爽やかな笑顔で言ってのける。


今の今まで纏っていた冷酷な雰囲気は嘘のように消えていた。


「そうか、お疲れさん。用が済んだら早く帰れよ?」


「はい、もう帰るところです」


律儀に先生にお辞儀をする紅月くん。


一瞬、壱夜くんを鋭く睨みつけると何くわぬ顔で資料室から出て行ってしまった。



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