初恋のキミは最愛ヒーロー
「あの……、碧瀬さん」
名前を呼ばれて顔を上げると、机の前にはクラスの女の子が立っていた。
なぜか頬がほんのり赤く染まっていて、ソワソワしている。
「どうしたの?」
不思議に思いながら訊ねると、女の子は胸元に手を持ってきて、教室の後方の入り口を指差した。
「王子が……あっ、えっと……紅月くんが碧瀬さんを呼んでるよ」
「えっ」
私が視線を向けると玲音くんは爽やかな笑顔と共に手招きをする。
教室内の女の子たちが甲高い歓声を上げる中、私は足早に入り口へと向かった。
「おはよ、碧瀬」
「おはよう。私に何か用事?」
「ちょっとお願いがあってさ。碧瀬、英和辞典って持ってきてる?」
「うん、あるよ!」
「一時間目が英語なんだけど、持って来るの忘れちゃってさ、貸してもらえないかなと思って」
「もちろん、私ので良ければ!今、持って来るね!」
玲音くんが忘れ物するの珍しいな。
でも、そういう時ぐらい誰だってあるよね。
廊下に出た私は、ロッカーの中から辞書を取り出して玲音くんに手渡した。