初恋のキミは最愛ヒーロー
“去年は私が昔住んでた場所に来てたみたいだし、先月なんて私が前に住んでた場所に来てたんだよ”
学校から帰る途中、商店街で有名な移動カフェとやらに遭遇して、列に並ぶ並ばないの攻防を繰り広げていた時に、莉彩がそう言っていたっけ。
その時は特に気にも留めずに聞き流していたけど…
あんな風に言うってことは…
ここに来る前に住んでいた場所以外にも居住経験があるってことだよな。
ということは、俺の母さんの実家がある県に住んでいた可能性もあるわけだ。
「………」
いや、そもそも名前が違うじゃねぇか。
“サチ”
聞き間違いなんてしていない。
確かに、そう呼ばれていた。
やっぱり、あの子と莉彩は別人なのか…?
モヤモヤとした気持ちを燻らせながら写真立てを机の上に静かに置いた時。
「ただいま、莉彩」
玄関のドアの開く音がした後、聞こえてきた女性の声。
莉彩のお母さん、帰って来たんだ。
俺は事情を説明するべく、部屋のドアを開けた。