初恋のキミは最愛ヒーロー
「重症だな、俺」
クシャクシャと頭を掻いた壱夜くんは、私に押しつけるように傘を持たせる。
「これ、返す。俺は走って帰るから」
「えっ、壱夜くん…」
雨粒が地面を強く叩きつけるように降り続く中。
傘から出て走り去っていく彼の後ろ姿を見つめた。
なんだか、壱夜くんの様子がおかしかった。
そう言えば、前にも…。
確か、転校初日の帰り道で、壱夜くんのことを“ヒーロー”だって話した時。
目を見開いて固まった後に、視線を逸らしてたっけ。
あの時も今日も、そこまで驚かせるほどの発言をした感覚はないんだけど…。
「…………」
もしかして、まだ出会って日も浅いのに、フレンドリーに接し過ぎだろ…的な感じで戸惑ってたとか?
いや、あれはドン引きの域かも…。
大いに有り得る…と思いながら苦笑してしまった。
それでも、また明日も懲りずに壱夜くんに声を掛けるよ。
今日みたいな新しい一面を、もっと見ていきたいから。