少女、紅茶香る





 長年愛し続けた宝物が、ついに壊れてしまった。


 悲しいか、と聞かれれば別にそういうわけでもない。いくら大事にしていたものでも、いつかは壊れるものであり、それが宿命なのである。それくらい、私も理解していた。


 壊れたものを治そうとは思わない。同じものに固執し続けるのは、時間の無駄であり馬鹿のやることだ。過去の投資に関わらず、私はいらないものはすぐに捨て去る。
 
 
 あんなに大好きだったアールグレイも、今では何とも思わなくなってしまった。茶葉の香り、色の全てが、思い出そうとしても思い出せない。全てを黒のマジックで塗りつぶされたかのように、真っ黒なものとなって私の中から消えていく感触が、日々を重ねるごとに強くなっていくのがわかった。

 思い出の消え方─────それはとてもあっけなく、興味を無くしたその瞬間から始まることを初めて知った。当然今の私の中に、喜沙という美しい少女の存在などもう無くなってしまっている。



 現在、まだ私に宝物はない。けれどいつか現れることを願って、今日もこの世界でゆっくりと命を燃やし続ける。


 学校に向かう途中、ジリジリと照りつける太陽が私の肌を焦がす。それが鬱陶しくて、一度は太陽を睨みつけたが、すぐに止めた。その代わり、頭上で広く澄み渡る青空を仰いで、私は一人、これから先の未来を頭の中で描きながら静かに笑った。













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