少女、紅茶香る






 ある雨の降る日、私は一人で買い物に出かけた。家の電球が切れたため、それの買い足しが目的だった。雨水を踏み、ピチャピチャと靴音を鳴らしながら歩く。傘に打ち付ける雨音がなんだか心地よかった。

 鞄の中から、喜沙からもらったアールグレイの茶葉が入った袋を取り出す。袋を開けて、乾燥した茶葉を二、三枚つまむとそのまま口の中に含んだ。濃い茶葉の香りが鼻腔を刺激する。ガリガリとそれをかみ砕くと、ゆっくりと飲み込んだ。喜沙の入れてくれる物が飲めないときは、いつもこうして茶葉を直接噛んでいる。そうすると、まるで喜沙が近くで守ってくれているような気がして、安心できるから。そういう意味では、この茶葉は一種のお守りのような存在でもあった。


 昔、一人で外出をするのにかなり苦労した思い出がある。あの一連の事件のせいで、しばらくの間、私は家の外やその他の人間をかなり警戒するようになった。なにせ、当時はまだ中学二年生という幼い子どもだったのだ。外界からなんも刺激も攻撃も受けることなく、女子校という一つの性としか関わりが無い場所で、極めて健全に育てられた私に、あの犯人はいきなり全ての過程を終えさせたのだから無理もない。

そんな私がやっと普通に外に出かけられるようになったのは、その事件から七月ほど経ったあとだった。


 現在に至っては、外部への不安感や恐怖はもちろん、性行為についてもなんの拒否感もなくなった。自分でも不思議なくらい回復したと思う。一生抱えて生きていかねばならない程の傷にならなかったことは、素直に嬉しいと思った。



 近所のスーパーに着くと、私は電球を購入するためにコーナーを探した。しかし、店内を見る限り今日は月に一度の特売日らしく、買い物客の数が異常でなかなか電球のある場所を見つけられない。

 普段スーパーでの買い物はほとんど母に任せてあるため、そんな日があることすらも知らなかった。改めて、自分がいかに家庭に貢献していないかを実感し、なんだか申し訳ない気持ちになった。


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