少女、紅茶香る
安い商品を買い求めるために必死になっている小母がスーパー慣れしていない私のことをどんどん押しのけていく。そんな風に安価物に食いつく人々を見ていると、世の人間というのはこんなにも滑稽で恥ずかしい生き物だったのかとなんだか落胆した。そして、そんな人間と私は同じ生物であり、他の生物からするとこの小母たちと変わらない存在であることに思わず嫌悪してしまった。
むさくるしい人ごみの中、足取り遅く店内を物色していると、ガラガラくじに当たった時に鳴るような金の音が二度聞こえた。その瞬間、タイムセールが始まるという店員と思わしき人物の声がして、同時に客のほとんどがその声のする方向に飛び出して行った。なにが起こったのか分からない私がその場で突っ立ていると、邪魔だよ、と小母に勢いよく突き飛ばされ、私は地面に尻もちをついてしまった。
私の横を、何人かの女が一目散に駆け抜けていく。その勢いが怖くて、私はなかなか立ち上がれないでいた。
「大丈夫ですか?」
ふいに、頭上から声が降って来て顔を上げると、そこにはある男が私に心配そうな顔で手を差し伸べていた。
私の顔を見て男が、あっ、と声をあげる。しかしそんなことはお構いなしに、私は差し伸べられた手を握って立ち上がった。
衣服に付いたゴミを簡単に手ではたき落とす。そして私は男の瞳を直視して言った。
「久しぶり、橘君」