少女、紅茶香る





 どうしてだろう。何故、こうなってしまったのだろう。私の物ではないベッドの上で、そんなことを考える。


 ベッドの上には、私がさっきまで身に着けていた衣服や下着が無造作に放り出されており、衣服という身体を守る役割を担っているもののあっけなさが物語られている。そして更には、私の体の中に橘のものが入っていた。腰を振り、快楽に勤しむ彼の姿はただひたすらに惨めで、つまらないものだった。



 経緯は何か─────そんなの私が知りたいくらいだ。

 スーパーで出会って、電球のところまで案内してもらって、そして買い物を済ませた。ここまでは、極々普通のことしかしていない。確かそのあとは、話があると橘のこの部屋まで呼ばれ、喜沙との仲が上手くいっていないという相談を聞かされることになった。

 そして、その話が終わってひと段落した頃に橘が、男の部屋に一人で来るってことはそういうことだよな。とわけのわからないことを言ったのち、私は全てをさらけ出す羽目になってしまったというわけだ。


 きっと、私と彼がスーパーで出会った時点で、こうなることは全て決まっていたのだろう。しかし、喜沙と橘の仲が上手くいっていないというのは建前でなくおそらく本当の話で、相談したいというのも嘘ではなかったと思う。けれど、喜沙に対する不満と、それまで抑制していたはずの性的欲求が、私という女を身近に感じることで抑えきれなくなっただけなのだ。それに、喜沙と橘の関係を歪めているのは紛れもない私自身であって、これはその報いなのだと思う。


「あ、あぁっ」


 彼が腰を動かすたび、そのリズムに合わせて私ははしたなく声を漏らす。

 快楽に身を沈めて、幼馴染の彼氏と性行為をして、私はいつからこんな人間になってしまったのだろうと答えの返ってこない自問を繰り返す。
 
 あの事件で私は一体何を学んだのだ。男という生き物がどれほど愚かで汚らわしいものなのかを、身を呈して味わったはずではなかったのか。それとも、異性同士の性のなんたるかを実践を交えてただ理解し、頭に刻み込んだだけだったのか。いや、おそらく後者だろう。でなければ、今こんなこと出来るはずがない。

 私は自身が、日中、スーパーで安価物を求めて必死に走り回っていた小母たちとなんら変わりないということを思い知った。実際、今本当に嫌ならここで橘を突き飛ばして逃げてしまえばいい。なのに、それを行わないということは、私も快楽という満足感を得るために彼にしがみついている、汚らしい哀れな雌で、この世の中にいる人間という滑稽で恥ずかしい生き物の一員なのだ。


「喜沙ちゃんとも、同じことができたらいいのに」


 そう呟いた橘の表情は、少し寂しそうだった。

 無理だよ。私は心の中で彼に告げた。


 ふと、視線を隣に移すと、開いた自身の鞄の中からちらりと見えたアールグレイの茶葉の袋が、己を主張するようにそこに鎮座していた。無意識に手を伸ばしてみたけれど、袋に手は届かなかった。




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