攻略なんてしませんから!
OPは賑やかに
ー月日は流れ、幼かった私達も成長し学園へ通う歳になった。
クラスター王国では、十五歳になると平民・貴族関係なく、希望や行く気があれば学園へと通う事が出来る。
希望制なのは、貴族の場合は、早々に婚約と結婚が決まっている令嬢がいらっしゃるからです。親の決めた結婚なので、婚家の許可をとって学園へやってくる方もいらっしゃいますが、一年と持たずに辞めてしまいます。
一般の方は、騎士を目指す生徒、商人としての勉強がしたい生徒、王宮の官吏になりたくて勉強する生徒と多種多様ですが。
平民でも貴族でも、魔法の力を確認されると『魔法特進科』へと入学を余儀なくされます。魔法はしっかりと制御出来ないと大変なので、『魔法特進科』については、国からの補助として寄付金がだされる決まりとなっています。
(政略結婚が決まってようと、学ぶお金が無いとかでも、魔力があるとわかったら関係なしだから、結婚が嫌な令嬢が真剣に魔力検査に挑むのもわかるなぁ)
七歳のあの日から、私の傍には守護聖獣の二匹がいつも一緒に居るようになりました。十歳なって受けた魔力検査では、アイクお兄様は水属性とその上位である氷属性の適正を持っていたのです。にっこりと微笑みを浮かべるアイクお兄様から、冷たい冷気を感じていたのは気のせいでは無かったのですね。
私も魔力検査を受けたのだけど、公式とは違う事がやはり起こってしまいました。ゲーム公式設定の私の属性は、闇と水と風の三属性という設定だった。ギベオンが一緒だったら、きっとそうなっていたのかもしれない。今の私の持つ属性は、闇と光と風と水の四属性。複数属性持ちの上、稀少属性を二つも持っている。
(コレはハウライトとオブシディアンの影響が大きいんだけど、結果が出た時の騒動といったら…すごかった)
学園入学は決定だったけど、卒業後は王宮魔導師にならないかとか、どこそこの公爵家令息の婚約者にとか、果てはラズーラ王子殿下やリモナイト王子殿下の妃候補の話まで出てきてしまって。学園に通ってきちんと制御の方法を学ぶのが先決だと、お父様が言ってくれなかったらと思うと、今でも背筋を嫌な汗が伝う。
「アリア、学校の時間です。アイクが呼びにきますよ」
「今日も可愛い」
「ありがとうハイライト、オブシディアン」
私以外の人が聞いても『にゃあにゃあ』としか聞こえない二匹の声も、私にはしっかりと普通の言葉として聞こえて来る。聖獣なので、普段の姿は可愛い子猫のままだけど、二匹の結界のなかではとても綺麗で素敵な、王子様のような容姿をしているのです。
白銀の髪や耳と尻尾はそのままに、可愛い容姿をしていたハウライトは爽やかな笑顔が似合う青年に。黒髪のオブシディアンは相変わらず表情の変化が乏しいけど、涼やかな目元の青年にと、顔がいいのはもうお約束だなと、観賞を決め込んでいる。うちの子可愛い。
「今日から学科分けされた新しい教室になりますの、魔法特進科ですから二人も一緒にいけますわよ」
「本当?」
「一年待ちましたからね、私達はたまにこっそりとアリアに着いていってましたが」
「ええ、今日からは堂々と通えますわ!」
白を基調にされた踝までのロングワンピースに、紺のセーラーカラーの襟にも白いレースがあしらわれている。スカートの裾には紺のレースがあしらわれていて、ふわりと風に揺れるのがとても可愛い。ベルトの変わりに、腰に付けられた幅の広い帯を背後で大きなリボンにして完成。
風に揺れるたびに、リボンにじゃれてくるハウライトとオブシディアンから逃げつつ、学園への準備をしているとコンコンと軽いノックの音が聞こえてきた。
「おはようございます、お姉様。朝食に行きませんか?」
「ラーヴァおはよう、お父様もお母様もアイクお兄様もきっとお待ちね」
ふわふわの金髪に琥珀色の瞳、昔のアイクお兄様そっくりだけど浮かべる無邪気な笑顔は違う。ラーヴァも十歳になった時に魔法の適性検査を受けました。ラーヴァは風魔法が得意で、アトランティ家でも歴代一位の風魔法使いになるのでは?と言われています。
屋敷では今でも手を繋いで廊下を歩くけど、外では貴族らしく礼儀を忘れないのは、やっぱりお母様の教育の賜物です。
学園に入学してからは、毎朝アイクお兄様と一緒に侯爵家の馬車で登下校しています。王立学園には、家が遠い生徒向けに寮も完備されているけれど、アトランティ家は馬車を持っているので通っています。
(寮に入ってしまったら、ハウライトとオブシディアンに会えないもの。可愛いラーヴァを抱き締められないのも辛い)
「新入生の皆の、輝かしい活躍を期待している」
壇上で凛としたラズーラ王子殿下の声が響き渡り、一拍置いて広がっていく拍手。私の右隣ではリモナイト王子殿下が座っていて、尊敬の眼差しを向けている。甘えん坊だったリモナイト王子殿下も、まだ可愛らしい顔つきはしているけど、幼さが抜けて『男の子だなぁ』と思える瞬間を見かける時が増えてきた。
(こういう考えしてるから、未だに前世の自分が抜けてないなって思うよね)
学園の生徒代表で祝辞を述べたラズーラ王子殿下は、会場の端で控えていたアイクお兄様の隣へと並び、騎士科代表として一緒に並んでいたジャスパー様は、こっそりと欠伸を噛み殺していた。
(退屈なのは分かりますけど、見えてましてよ。ジャスパー様)
目が合うと悪戯が見つかった子供の様な顔をして、二カッと笑顔を見せてくれた。そんなジャスパー様に仕方無いと微笑みを返していると、新入生は貴族と平民に分けられた後、これから一年学ぶ基本学科の教室へと案内されていく。
(私も一年間基礎をみっちりやったのが懐かしいわ、貴族でも上級と下級に分けるなんて思わなかったもんね)
私とリモナイト王子殿下は同じ魔法特進科、マウシット様は貴族科、アズライト様は騎士科と一年の時は同じクラスでしたが皆バラバラになってしまいました。でも後で逢う約束をしているので、とても楽しみです。
「アリア、後でラズ兄様がカフェにおいでって言ってたよ」
「あら、アイクお兄様も言ってましたわ。学園にあるカフェテリアで、待ち合わせておりますの」
「じゃあ、ラズ兄様も一緒かもしれないな」
「それなら……っ!?」
『アリア!気をつけて!』
『何だ、この殺気』
リモナイト殿下と話をしながら会場を出た瞬間、背筋をゾワリと這う嫌な気配。猫の姿で足元に居たハウライトとオブシディアンも、嫌な気配を感じたのか、尻尾が二倍くらいに膨れ上がっていた。慌てて振り返り視線の元を捜すと、其処に居たのは同じ制服を身に纏った薄いピンクの髪をゆるやかな三つ編みにした少女。
(あれは、ルチルレイ……?)
ゲームでは可愛らしい笑みを浮かべているはずの、薄紅の唇はきゅっと結ばれてニコリともしていない。綺麗な空色の瞳は、曇り空のように何処か翳りがあった。ルチルレイの隣には、大きなダークシルバーの狼が従うように並んでいる。
「ギベオン、行くわよ」
『……』
ルチルレイに返事をしなかっただけなのか、それとも、私にはもうギベオンの声が聞こえないのかは分からない。二人は踵を返し、私達がこれから向かう教室へと歩いて行ってしまった。
『アリア、大丈夫?』
『魔力の気配は感じませんでしたから、何も攻撃はされていないはずです。念のため教室に入る前に結界を…』
「大丈夫ですわ。何ともありませんから、二匹共落ち着いて?」
にゃあにゃあと鳴く二匹を抱き上げて、ふわふわな毛並みへと頬を寄せる。ハウライトは直ぐに首筋へと擦り寄ってきて、グルグルと喉を鳴らしているけど、オブシディアンはじっと私を見つめたあと、頭を頬に擦り付けて甘えてきた。
「相変わらず、仲良しなんだね」
「家族ですもの」
「僕も撫でていい?」
「ええ、どうぞ」
リモナイト殿下の手がハウライトに伸び、そのまま撫でるのかと思ったら、ハウライトを通り越して私の髪に触れる。猫を触りたいんじゃないの?と瞳を丸くしている私に気がついたのか、紫に金がかかった不思議な瞳が、にっこりと笑みを見せ妖しげな色気を醸し出す。
「リィ様……?」
「ふふっ、リモナイトって呼ばれるより、そっちのほうが僕は好き。アリアの髪はラズ兄様と同じで、とても綺麗。あ、でも良い匂いがする。お菓子の甘い匂いかな?」
(ちょ、ちょっと!?ちょっと待って!誰この子!)
「いつも触りたいって思ってたんだけど、アイクが見てるから無理だったんだよね」
「は?」
「アイクの氷魔法は流石に怖いもん。だけど、やっとアリアと二人だよ」
「教室には沢山の生徒さんがいますわよ!?」
そう言って慌てる私に色気たっぷりの微笑みを向けるのは、いつも私が餌係をしている可愛い可愛い甘えん坊のリモナイト殿下。だけどその行動は、いつものリモナイト殿下じゃない!この男の子誰!?今まではマウシット様やアズライト様と一緒だから猫被ってたって事ですか?そんでもって、何でアイクお兄様が出てくる!?
顔は固まったままなのに、器用に心の中で混乱している私の心が伝わったのか、ハウライトとオブシディアンがじっとリモナイト殿下を見ている。猫パンチで攻撃をしないのは、二匹ともリモナイト殿下をラーヴァと同じ様に見ていたからかも?
「あの、リモナイト殿下…」
「リィって呼んでくれたら、離してあげる」
「アリアー!」
どうやってこの手を離して貰おうかと考え、口を開いたその時、私の名前を呼ぶ声に『救世主きた!!』と、ほっとした笑顔を浮かべた私は、多分悪くないと思います……。