攻略なんてしませんから!


 アイクお兄様に手を引かれ、荷物は王宮へと戻る王子殿下達と一緒にと、ジャスパー様が持って下さいました。馬車の座席はいつもよりクッションが多めに用意されていて、使用人さんの気遣いがとても嬉しい。
 静かに揺れる馬車で、アイクお兄様の膝を借りて身体を休めることにしました。

(きっと、アイクお兄様が、風の術で連絡してくださったんですね)


「ただいま戻りましたわ」
「お帰りなさい、アイクお兄様、アリアお姉様」

 エントランスに足を踏み入れると、執事と一緒に可愛い弟のラーヴァが走り寄ってきました。ただ、ラーヴァの肩に見慣れない鳥さんが乗ってます。全体的に雪のように真っ白な体に、羽の先がほんの少しだけ緑色に染まっています。

「今日お庭で風魔法の練習をしていたら寄ってきて、アリアお姉様のお菓子を上げたら懐いたんです」
「懐いた?」
「珍しい色だね、ハウライトとオブシディアンは大丈夫なのかな?」

 アイクお兄様が気にかけるのも其のはず、猫科は鳥類を見ると狩猟本能が掻きたてられるものです。ですが、ハウライトとオブシディアンは聖獣ですので、言葉が通じます。さっきから静かな二匹を改めてみてみると、ラーヴァの肩の鳥さんを見て大きな瞳をまん丸にして居ました。

『アリア、それ……』
『風の精霊ですよ、アリア』
「ええ!?この鳥さん精霊さんなんですの?」
「うん、そうだって言ってました、風の精霊さんらしいです。アリアお姉様のお菓子を気に入ってもっと欲しいって言われたんですけど、その時はもう無かったので、家に来ればあげるよって」
「……アリアのお菓子は、動物を集めるのにも効果があるみたいだね。動物だけじゃなく、精霊にも効果あるみたいだけど」
「そのようですわね……」

 驚きの事実に顔を見合わせていたアイクお兄様と私でしたが、そんな私達に可愛い弟のラーヴァはニコニコと笑顔で手を振って、見て見てと手を広げる。すると、小さな竜巻が優しくがラーヴァを包み、天井へと消えていく。

「これは、風の属性魔法ですわね」
「ラーヴァは風の属性よりだったけど、此処まではまだ使えなかったはずなんだけど…?」
「この子がお友達になった瞬間から、一気に力が強くなったんです。水魔法も一応適正があったようなんですけど、調べなおして貰ったら、僕は風魔法の特化型だって言われました!」

(な・ん・だ・と・!?)

 ニコニコと嬉しそうなラーヴァの頭を、アイクお兄様と二人で流石ラーヴァ!可愛い可愛いと思う存分、褒めて撫でて愛でつつも、私の心臓はバクバクです。

(ゲームの公式のラーヴァは、確かに水と風の適正はあったけど、小鳥さんも居ませんでしたし、まさかの風の特化型なんて聞いてませんわ。もしかしなくても、私、またやらかしましたのね……)

 アイクお兄様の氷属性の特性といい、ラーヴァの風属性の特化型といい、ゲームの公式とはかなり違うように進んでいるのは違いありません。多少の罪悪感はあれど、気になるといえば『ルチルレイは攻略対象者と問題なく恋愛できるのか』という事でしょうか?

(そもそも、ギベオンが向こうですものね……)

 恋愛の事なら魅了の出来そうな闇の属性の方がいいのか、治癒や癒しに特化している光の属性の方がいいのか。其処までは私もわかりませんが、出来る事なら、ハウライトとオブシディアンそして、ギベオンの三匹も交えて話をしたほうがいいかもしれないと、改めて思った一日でした。


 ああ、忙しい。(主に私の心が)

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