攻略なんてしませんから!
攻略対象に会いましょう。

二年経ちました。



「ふふ、ラーヴァは可愛いですねー」
「ねーねー!」
「ねーさまですよー」
「ねーたま!」

 最初こそ泣いてしまったが、基本的に小さい子には弱い私は、生まれたばかりの弟にメロメロになりますとも。立派なお姉様として、身体の弱いお母様がゆっくりと休めるようにラーヴァと遊んだりお世話をしています。たまにやり過ぎて『お嬢様がする必要はありません!』って乳母に怒られてしまいます。
 だけど、散々世話をしていた所為なのか、ラーヴァは二歳になりますが完全に姉っこに育ちました!やったね、7歳が乳母に勝ったぜ!

(それにやっぱり、赤ちゃんの甘い匂いって大好きなんだもん)

 ゲームでは大きくなったラーヴァは、攻略対象の幼馴染として登場していた。本来のアメーリアは弟には興味が無くて、お兄様に比べると何処か余所余所しくて勿体無いと何度思ったことか。出来る事ならラーヴァとも交流を深めたかった私にとって、今の状況はまさに天国です。

「ぷくぷくのほっぺに天使の笑顔、本当に可愛いっ」
「きゃー!」

 ぎゅうぎゅうと抱き締めて頬を摺り寄せて、擽ったさに笑い声を上げるラーヴァに、お母様もラーヴァの乳母も私達を微笑ましく見つめていた。
 この世界に転生したからには、小説とかでよく見ていた転生チートなるものがあるのかと思っていたけど、現在の私はゲーム前だからなのか出てきたのは親切にも、誰が誰であるというお名前表示のみ。今はラーヴァの横にふきだしがあって、ラーヴァ=アトランティと書いてあります。

「お嬢様、此方にいらしたのですね」
「セシル」
「今日はお茶会の準備がありますので、お部屋にいて下さいとお願いしたではありませんか」
「だって、ラーヴァが誘いにきてくれたんですもの」

 折角可愛い可愛い弟と遊んでいたのに、私専用付きとなった少し年上の侍女のセシルが私を捜しに来てしまった。残念です。
 お茶会と言うのは、貴族の社交の場の一つでもあります。普通は貴族の奥様達が情報交換の為に開いたりするんだけど、今回は王妃様主催という参加必須もの。十歳前後の貴族の子女が集められており、勿論お兄様も御呼ばれしている。
 今日着ていくドレスは、お母様が選んでくれた薄い紫にフリルとレースがあしらわれた、少女が着るにしては少し大人っぽいデザイン。まぁ、ピンクのフリフリとか出されても無理だけどね。もう一人のヒロインちゃんの方がきっと似合うな。

「ごめんなさいね、アリア。お母様が一緒に行けなくて」
「いいえ、お母様はゆっくりお体を休めてくださいませ」
「お父様の言う事をしっかりときいてね?それと、今日のお茶もとても美味しいわ。いつもありがとうアリア」
「今日のお茶は、シソという東の国のハーブを使いました!」

 申し訳無さそうに眉尻を下げて見つめてくる母は、アイドクレーズお兄様と同じ髪と瞳を持つ、三人の子持ちとは思えない美しくて儚げな人だ。美魔女なのではないかと常々思ってしまうが、母はラーヴァを産んでから体力が戻らないのか、体調を崩しがちだった。

(咳も熱もないし、風邪とかじゃないんだよねー…。動かないってのもそもそも問題あるか、お母様引き篭もりになってるもんね。男の子の親なんて、体力勝負だもの。そう乳母さんがいい例)

 ラーヴァの為にも母には元気になって欲しくて、というか動けとばかりに、私はお兄様と一緒にお庭の花壇の花の種類を増やしたり、植物の勉強をして、屋敷が持っている温室に薬草を育てたりと、子供なりに色々やっている。
 前世でもお茶は好きだったので、持ってる知識はフル回転。あるモノは使わないと損するんだよ!しかも、紫蘇なら料理にも使えるし、お酒やジュースにもなるからね。色々使えて繁殖力抜群なんだから、お母様の健康にも役立つってなら、お父様と出入りの商人を説得して仕入れて貰いましたとも!

「お嬢様、旦那様とアイドクレーズ様もお待ちになっていますので」
「解りましたわ、ラーヴァ帰ってきたら又遊んでくださいね」
「ねーたまぁ、ラーヴァも!」
「ラーヴァ…っ、ねぇさまも連れて行きたいっ!」
「お嬢様、いけません」

 涙目で両手を伸ばして抱っこを要求する弟をぎゅっと抱き締めていると、背後から冷静な侍女の言葉が私と弟を引き離す。(冷たい言い方になってしまったけど、セシルは有能な侍女ですよ!)乳母がラーヴァを抱き上げ、私は泣く泣くお茶会の仕度へと向かったのだった。

 母と弟と屋敷の皆に見送られ、私は準備を済ませ待っていたお父様とアイクお兄様と一緒にお茶会会場でもある、王宮の中庭へと連れて行かれた。その場所は、ゲームのプロローグの始まりの場所でもあります。私の年齢ではまだイベントには早いので完全に気を抜いて居ました。

 そう、普通のただのお茶会だと思っていたんです。


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