攻略なんてしませんから!
「見事な庭園ですわね、アイクお兄様」
「うん、いつ見ても綺麗だよね」
流石はクラスター王国が誇る王城の中庭です、色取り取りの綺麗な花が所狭しとばかりに咲き誇っていて、丁度今が見頃といった所でしょうか。そんな中庭にも、小さな令嬢達の色取り取りのドレスがふわりと広がっていて
(…ああ、このまま此処で眺めるだけにしていたい)
私、思いっきり気後れしてます。はい。あと、交流するのがめんどくさい。
可愛いなぁ、微笑ましいなぁっておばちゃん思考がヤバイでしょうか?でも、目の前には着飾った可愛い可愛いショ(…ごほんっ)上位貴族の小さな令嬢達が揃っています。いや、見てませんよ!?可愛い男の子ばっかり見てませんからね!?うちのお兄様とラーヴァが一番可愛いとか、ブラコン丸出し精神はしっかりと心の中に隠してますからね!
「どうしたの?アリア。皆と一緒にお菓子を食べに行かないの?」
「ええーっと…」
アイクお兄様の腕に掴まって、しっかりとエスコートされてやっては来ましたが。こんなキラキラした風景に私が紛れ込んでもいいのだろうか。公式通りにいくなら、アリアはツンッと気取って、一人でも優雅にお茶を楽しんでも可笑しくないんです。今はアイクお兄様が一緒なので、兄妹で揃ってやるのか…。
取り巻きを多く引き連れて、傍から見れば悪役令嬢のようなアメーリアを想像して、あの高笑いの似合いそうな行動を私にやらせるとか、ハードル高すぎるわ!!
「アイクお兄様…、人が、多いです」
「アリア体調が悪いの?いつもなら喜んで参加してたのに、本を読んだり魔法の勉強は喜んでやってたよね?」
「そ、そうですか?そんな事ありませんわよ?」
「女の子ってドレスとかキラキラした物が好きなのかと思ったよ?あ、だけど庭師のアルが薬草や花が多くなってお母様が喜んでるって言ってたな」
「それは、良かったです。お母様も庭を散歩する良い口実になりましたわ」
(世間一般的な女の子、若しくは貴族令嬢ならそうかもね)
しかし、私は前世では買い物以外では、なるべく家で本を読んだりして引きこもっていたい人だったんです。誰にも会いたくないって訳じゃないよ?パートだってしてたけど、だからって外で高い金を払っておしゃべりしながら、ママさん達とランチやお茶をするってのが苦手だったんだ。
(金額によりけりだけどさぁ、アレ一回で家族で外食いけんだよ!?なら家族で行く方がいいよ)
美味しいご飯は家族で楽しみたい信念の人だったので、こういう風に集まってきゃあきゃあしましょうって精神が家出してたんだよね。折角旦那が汗水掻いて働いてきてくれたんだから、還元するなら家族がいい思いする事にしなきゃ!何よりもこれが前提でした。仲良しのママ友達とはお菓子持ち寄りのお家でお茶会のが多かったから、少数しか免疫がないんだよね。
一先ずアイクお兄様と一緒にテーブルに着き、執事や王宮メイドさん達が用意してくれるお茶を楽しむ事にする。お菓子は沢山用意されていたけど、どれもコレも甘味が過剰過ぎて美味しくない。
(ケーキとかに乗ってる砂糖菓子みたい…、メタボと虫歯まっしぐらって感じ)
私が暮らしているクラスター王国は緑豊かな森を背に、大きな湖を東に持つ立地に恵まれた国。湖から引かれた川が王国内を循環していて、日本と同じで四季が有り、春と秋が長め。獣人と魔法が普通に存在するという素晴らしい国。
そうです、魔法も心ときめきますが獣人が存在しているんですよ!敵としてじゃなくて、普通に生活しているし、貴族にだって獣人のお子様達がいるんです!モフモフ最高!
(おっと、落ち着け自分)
まぁ、そんな豊かな国なので食べるには困らないんだけど、どうしても甘味はやっぱり高価なものだから、ただ甘いだけの砂糖菓子が高級品になってしまっている。蜂蜜を使ってもいいんだけど、二歳未満には抵抗あったんです。ラーヴァには自然な甘さでいけるように芋類を使ってお菓子を作ってあげています。
(こんなに退屈なら、お屋敷で魔法の基礎練習の方が良かったかしら?ラーヴァとも遊びたかった)
そうです、魔法です。モフモフにテンション上がって忘れてましたが、この世界には魔法が存在しているのです。
しかし、魔法は皆が使えるとは限られていません。王族や上級貴族は使える者が多いと聞きますが、たまに下級貴族や平民の中にも現れると聞いています。もう一人のヒロインがこのパターンですね。魔法はとても特別ですが、扱いは難しいし適正と言うものがあるので、魔法を使える人はこの国の学園にある魔法特進科でキチンと学ぶ必要があるのです。
(って、この辺りは屋敷の本に載ってましたねー)
この国では、十歳までは魔法の使い方をあまり教えたりしないんだそうだ。勿体無い。五歳くらいから魔術の基礎を習ってゆっくりと身体に慣らしていくんだけど、其の中で適正を確認して、キチンと自分が扱える属性を知る事が大事なんだって。魔力の暴走を食い止めるのにもなってるのかな?
ゲームではアメーリアは三つの属性を持っていて、それもあって学園の魔法特進科クラスに居たくらい、実は有能だったりする。
(私も今は魔術の循環や魔力の容量を増やす基礎をやってるけど、アメーリアと同じのが使えるのかな…)
アイクお兄様やラーヴァと仲良く過ごしているし、お茶会に誘われても必要最低限しか参加していない時点で、私はゲーム設定のアメーリアとはかなり違うと思う。侯爵令嬢は社交場を戦場に、戦うのです!と拳を握り締めながら言っていた侍女のセシルを遠い目で見ていたのは、つい最近の事だったと覚えている。
それに、一つ大切な要素がこのゲームにはありました。ヒロインの話し相手とも相棒とも言える『聖獣』の存在。今の私には、その聖獣が居ないのです。ゲーム開始時には既に居たので、出会いが全く解らないんです。
「アリア、いらしたようだよ」
「え?」
ざわりとお茶会会場が色めき立ち、参加している令嬢達がきゃあきゃあと騒がしくなる。アイクお兄様の声に顔を上げ、ざわめきの先に目をやると、ふわふわと揺れる金色の髪が見える。
(キラキラで眩しくて真っ直ぐ見れな…、くっっっっそ可愛い!!!本当このショタ二人お人形みたいで観賞用に下さい!おっと失礼!令嬢にあるまじき言葉遣いでしたわ)
いやでもね?キラキラできっとサラサラであろう金色の髪に、微笑みを浮かべる白くて滑らかそうな薔薇色の頬、瞳を細めて笑みを見せていても其の瞳は今日の空の様な濃い青。まさに王道と言うべきキラキラ王子様ですよ!
ラズーラ=クラスター第一王子殿下、年齢はアイクお兄様と同じ歳の九歳。王道のキラッキラハイスペック王子様で、今は性格も柔らかく温和な優しい方です。メイン攻略対象で、この王子様を選んで落とすとクラスター王国の王妃様エンドです。
そして、その王子様の隣には、少し背の低いこれまた金髪の王子様。こちらは癖っ毛なのか、ふわふわと髪が風に揺れている。ひたすらにお兄様のラズーラ王子様を見つめているせいか、瞳の色は見えないけど、どこか小動物っぽい。
リモナイト=クラスター第二王子殿下、年齢は私と同じ歳の七歳。ふわふわの柔らかな金色の髪に、紫に金色がかった珍しい瞳の色をしている甘えん坊な王子様。しかもこの王子様どじっこ属性持ってます、そんな所も可愛いと侍女達からも評判なんですよ。勿論リモナイト殿下も攻略対象です。落としたら臣籍降下されて公爵夫人エンドとなります。
(攻略対象の王子様お二人、流石将来イケメンになるだけあって、このまま観賞していたいくらいの美少年だわ)
そんな二人の出現に、周りの令嬢達は我先にと挨拶をしに行く。うーん親から言われてるのかもだけど、小さくても肉食系はいるんだな。私も本当なら挨拶に行かなくてはいけないのかも知れないけど、積極的な令嬢達にほへーと感心してしまったんだよ。まぁ集団に気後れしたともいいますね。
(まぁ、私は最後でいいや。攻略対象に興味ないし。侯爵家の迷惑にならないようにさえすれば)
一人のほほんとそう考えて、目の前にある温かいお茶を一口頂いた。
「今日はお二人も大変だろうね」
「え?」
「だって、今日はお二人の婚約者候補を見定めるお茶会でもあるからね。令嬢方も気合が違うんじゃないかな?」
「そ、うだったんですか…」
「アリアには、僕が黙っていてって侍女のセシルに言ったからね。アリアは知らなくても当然だったんだよ」
「は?」
ちょっと待て、アイクお兄様よ!人差し指を口元にもってきて『ないしょ』って可愛い仕草されたら許すしかないでしょう!?
只のお茶会だと思ったらそれが目的のお茶会だったのか、そりゃ令嬢達も気合はいるわ。私にいたっては婚約者候補だと?お断りだ!!の考えですから。ニコニコとしつつも優雅にお茶を飲むアイクお兄様(マナー完璧です、お見事)に吃驚しか向けられない。
そもそも可愛いショ…(げふげふ)可愛らしい王子様達は、私にとっては従兄妹でもあります。王妃様がアトランティ家の親戚筋らしい。だから、遊び相手としてアイクお兄様も私もよく王宮に及ばれはしているのです。ラーヴァが生まれてからは、私は殆ど拒否してますけどね。
「あ!あのアイクお兄様?黙っていたのはどうしてですの?」
「僕とラーヴァが、アリアにお嫁に行って欲しくないからかな」
「!?」
(さらっといいましたねアイクお兄様、だけどあまりの可愛い理由に鼻血ださなかった私を誰か褒めてくれ。もうもう、本当にアイクお兄様もラーヴァも可愛い!)
行きませんし、婚約者候補になる気だってさらさら無いですよ!だって私が目指しているのは別のエンドです。
それにお兄様がラーヴァに言い含めてる時の姿を想像するだけで、悶えたいくらいに可愛い。うちの兄弟なんて天使。きっとラーヴァもあの大きな瞳に涙うるうる溜めて『ねーたまないないめー!』ってお出掛けする時みたいに嫌がったんだろうなぁ
(ああ、早く帰ってラーヴァを抱き締めたい!)
そんな事を考えてうっとりとしてる私と、それを見て安心しているアイクお兄様だったが、挨拶は後でいいやと思っていたのに、キラキラオーラが甘ったるい匂いを多数引き連れてやってくる気配を感じた。小さな溜息を零し、手にしていたカップを置くと、優雅に立ち上がるアイクお兄様に私も合わせて立ち上がったのだった。