【【贅沢な片思い】】ヤツの所には行かせない!
「芽衣」
梨田のかすれた声に抱きしめられていることに気がつき芽衣はハッとする。
やだっ、私っ抱きしめられてる。
芽衣は、自分の胸の辺りに交差された梨田の腕に触れる。筋肉質な男性特有のハリのある腕に緊張する。
本当に馬鹿だ。
見舞いに来ただけで、私は何してんだろ。
「離して…帰るわ」
梨田の手でくるりと体を回転させられた芽衣。
芽衣の肩に手を置いて、梨田はフッと笑った。
見つめられ髪に触れられると、意思に反して心臓が高鳴ってしまう。
こんなのはダメだ。
芽衣は体を固くした。
「芽衣は…」
梨田の瞳が芽衣の瞳を見つめる。
「芽衣は、ずいぶん自分勝手だな」
「え?」
自分勝手なのは、いつもモテ男の方だ。
何故、私が自分勝手なの?
「引き止めて欲しそうだったのに、いざとなると早く帰りたがるんだから」
「…誤解よ、帰るわ」
「…うん、わかってる」
梨田は、芽衣をやんわりと抱きしめる。
どうかしている。
早くこの腕から逃げないと。
「あなたの誤解なの、帰る」
「うん、そうだな」
芽衣を抱きしめる梨田の腕は、ぴくりとも動かない。