【【贅沢な片思い】】ヤツの所には行かせない!
「本気か?」
構えた風な男。ヘラヘラした笑顔が消えて強張ってみえる。
「ええ、もちろん」
いつもナンパが成功すると思ったら大間違いよ。あんたみたいなモテ男が大嫌いな女もいるってことを思い知りなさい。
「通報されたくなかったら、ストーカーみたいにつきまとわないで」
「……わかったよ。つきまとわない」
男は降参という具合に両手を上げてみせた。
「そう、良かったわ。面倒なことにならなくて」
くるりと方向転換した芽衣は、ようやくホッとして駅へと歩き始めた。
駅が見えてきた時に、まだ握っていたスマホが鳴り出していた。
「ん? 真知子か」
真知子からの電話だ。
「もしもし、真知子?」
『あんた今どこにいるの?』
怒っているようで、真知子の声がやたら大きい。慌ててボリュームを下げる。
「え?今なんて?」
真知子の言葉が良く聞き取れなかったので再び聞いてみる。
『梨田さんを待ちぼうけ食らわす気なの?! もうっ!何してるのよ!ずっと店で待ってるってよ!!」
徐々にエキサイトしてくる真知子の声。
スマホを耳から少し離して立ち止まる芽衣。
どういうことだろう。頭が混乱してる。
え?
ずっと待ってるって…何?
恵比寿駅を目の前にして芽衣は立ち尽くしていた。