【【贅沢な片思い】】ヤツの所には行かせない!
別にデートって訳じゃない。たまたま観たかったサスペンス映画が、ちょうどやっていたから。
どうせ1人でも見にくるつもりだったし。
芽衣は梨田の後ろから館内へ入った。
真ん中より少し後ろの列。
端の3人座席がある場所。JのB席、C席が芽衣と梨田の席だ。
「はい、芽衣」
座ってから、梨田がポップコーンを芽衣の前に差し出してきた。
「はあ…どうも」
「あっ、俺両手塞がってるや。芽衣、食べさせて」
右手に持ったオレンジジュースと、左手のポップコーンを芽衣に見せ顎で示す梨田。
「ジュースをホルダーにおけば、いくらでも食べられますよ」
「…だね〜、でも、芽衣に食べさせてもらたいなぁ。一個だけ。一個だけで俺は全然静かになるよ」
映画が始まるまで間があるものの、もう静かにしてもらいたい。
「…わかりました。1個だけですよ」
「うん、1個だけだ。ありがとう」
仕方なく大きめなポップコーンを選んで、ちょっと摘んで梨田の口元へ運んだ。
「あーん」
大きな口を開けて雛鳥みたいに待つ梨田。
その口にポップコーンを入れると梨田は満足そうに頷く。
「サイコー。映画サイコーポップコーンサイコー。そうだ、芽衣。オレンジも飲んで良いよ」
「コーラがあるから大丈夫です」
「オレンジも飲みたいだろ?まだ口つけてないし、ストロー使わないから俺」