【【贅沢な片思い】】ヤツの所には行かせない!
映画に集中出来なかったなんて初めてだった。
手なんか握ってきたモテ男のせいだ。
映画が終わりエンドロールをしっかり観て明るくなった館内。
「さて、出ようか」
席を立つ時に離された手。
芽衣は、自分の手を静かに見つめた。
「…化粧室に行きたいんだけど」
「うん、どうぞ。待ってるよ」
!!
芽衣は、梨田を見た。
ニッコリ微笑む梨田。
『待ってるよ』
そんなどうでもいい言葉ひとつに、芽衣は、どきっとしていた。
化粧室で用を足し、個室から出た芽衣は手を洗いながら、ため息をついていた。
ガキみたい。
手ぐらい握られたくらいで、ドキドキするなんて。
とんでもなく青くさい自分に芽衣は腹が立っていた。
壁にもたれて立っている梨田を見つける。
前髪がサラリと垂れて、綺麗な瞳を隠していた。
髪を上げればいいのに。イケメンだから顔を隠して勿体無いとは思わないのだろうか。
そんな風に思いながら近づく。
「お待たせしました」
「うん、待ったなぁ。100時間くらい待った」
「つまんない。そんな冗談」
「じゃこれは?」
梨田は、左右に体を素早く移動させて芽衣をジロジロと眺めた。
「あれっ?少し見ない間に芽衣は 映画のヒロインみたいに可愛らしくなってない?さっきの映画に出てたかな?」
「…嘘っぽい」
「そ? じゃこれは?」
梨田は、自分の左手をヒラヒラさせる。
「俺の左手が芽衣の右手を探して大変だったよ〜ガルルル〜」
梨田は、言いながら芽衣の右手をガバッと握った。