【【贅沢な片思い】】ヤツの所には行かせない!
「教える必要なんてないわ。あなたとは、もう二度と会わないから」
「そうか? そう言うなら、俺は毎日ここに来ようかな」
ニヤリと笑ってみせ梨田は、息を大きく吸い込んだ。
そして、
「物件をひとつも紹介してくれないなんてよ〜一体どういう会社なんだよ!」
と突然大きな声をだしたのだ。
「ちょっと!どういうつもりよ」
「俺は家を探してるだけ。当たり前だろ? ここはハウスメーカーなんだから、わざわざ魚を買いにハウスメーカーへ来るわけがない。魚だったら魚屋に行くし、肉なら肉屋に行く」
梨田の例え話に周りの客がクスクスと笑った。
客を対応していた社員たちは、クレーム客なのかと若干ピリピリした雰囲気で梨田と芽衣の様子を窺うようにみている。
「…お客様、誤解があったようです。もう一度座って下さい」
接客中の新しいチーフ 山本 比佐乃(やまもと ひさの)が梨田に椅子を勧める芽衣に対して監視しているような視線を向けてくる。
「え、いーの?」
梨田は明るく言って、さっきまで座っていた椅子に戻りまた腰を掛けた。
「大丈夫です。皆様お騒がせいたしました」
周りの客や社員に対して、詫びを入れ芽衣も再び椅子に座る。
踏ん反り返るように座って梨田は、愉快そうに笑みを浮かべて芽衣を見ていた。