【【贅沢な片思い】】ヤツの所には行かせない!
「芽衣、じゃ、殴られないうちに帰るよ。またな」
梨田は芽衣の手を離し爽やかに笑って走っていく。
あのモテ男のせいで、違うモテ男を思い出してしまったじゃない。
もう、忘れた。
忘れたから、真知子に恋人候補を紹介してもらう気になったのに。
力をなくし、とぼとぼと芽衣は会社へ戻った。
芽衣の姿を見つけたチーフがすぐに近づいてきた。
「どうだったの?田中さん」
「大丈夫です。引き続き物件探しをうちでしてくれるそうです」
「そう、それなら良かったわ。今は少しでもうちの営業所の成績上げないと、今度本社からくる課長が厳しい人らしいから。あなたももっと気合い入れた方がいいわよ」
チーフに言われたくなかった。だが、チーフになるないとわかってからの芽衣は目に見えて士気が下がっていたのは確かだ。
「新しい課長って、斉藤課長は移動ですか?」
「そうよ。二週間後に日暮里支店へ移動よ。知らなかった?」
少し馬鹿にしたような言い方だった。
知るわけがない。
チーフでもない。
一介の平社員の私が貼り出されてもない人事移動を知ることなど不可能だ。
不可能だとわかっていて、チーフは言っているのだ。