【【贅沢な片思い】】ヤツの所には行かせない!
「公休ではありませんが、それ以上のことはお答えしかねます。申し訳ございません」
従業員のプライベートな部分は、やたらと答えられないようだ。
「あの…」
どうしても知りたかった。
梨田が仕事を休んだ理由。元気なら問題はない。だが、体調を崩しているなら話は別だ。
「私、あの田中芽衣と申します。えっと先日そちらで」
芽衣がしどろもどろに切り出している途中で、電話の向こうが声を上げた。
「あっ!田中芽衣さんですかっ、オーナーの彼女さんになる予定の人ですよね。僕、向井です。あの日僕も店にいたんですよね」
あの日店にいたウェーブヘアの好印象な若い男の子の顔が浮かんだ。
「彼女になる予定…あなたに梨田さんは、そんな風に言ってたの?」
「ええ、だから協力しろって言われてて。あれから、どうなりました? 彼女さんになったんですか?」
「まさか。そうじゃなくて、私が聞きたいのは」
「オーナー声が出ないとか言ってて。風邪ですかね〜」
向井は勝手に自分の言いたいことをぼやいてくる。だが、そのおかげで容易にこちらの知りたいことが知れた。
声が出ない……やっぱり風邪ひいたの?
芽衣が口を開きかけた時に向井が言ってきた。
「やっぱり、彼女さんだとお見舞いとか行くんですか?」
自分のペースで話してくる向井。
彼女じゃないって言ったのに。
残念ながら彼は人の話を聞く耳を持ちあわせていないようだった。