【【贅沢な片思い】】ヤツの所には行かせない!
玄関のインターフォンを押す前に、さんざんみつめた焦げ茶色のドアが外側へ開いてきた。
大きなマスクをつけ柔らかそうな素材の短パンとパーカーというルームウェア姿の梨田が出てきたのだ。
前髪が垂れて瞳が少しかくれている。
無造作に梨田が前髪をかきあげた時、その瞳が笑っているを見て芽衣はホッとしていた。
「ごほ、ごほごほっ」
唐突に咳をして体を少し曲げた梨田。
「大丈夫?」
体を屈めた梨田の腕にそっと手をやる芽衣。
梨田は体勢を直すと、すぐに芽衣の腕を引っ張った。
「…芽衣、来てくれたんだな」
と掠れた声でいいながら芽衣をぎゅっとハグする。
すぐに芽衣から離れて
「ありがと…ごほっ」
梨田は下を向いて咳をした。
「ありがたいけどさ、うつると…ごほっ…ごほっ」
後ろを向いて咳をする梨田の背中を芽衣は、優しくさすった。
「私にシャツ貸してたせいでしょう? 昨日、寒いって言ってたから」
「違う。その前から喉がやられてたんだ…ごほっごほっごほっ」
「悪化するとまずいですよ。中へ入ってください。少し上がってもいいですか?」
「もちろん…ごほっごほっごほっごほっ」
咳をしながら頷く梨田に続いて、芽衣は梨田の家に上がった。