【【贅沢な片思い】】ヤツの所には行かせない!
近づいてきた梨田は、芽衣の目の前に来ると
「ゴホゴホン、ゴホゴホッゴホゴホッ」
急に咳き込んでしゃがんでしまう。

「ちょっと、梨田さん大丈夫?」

しゃがんで咳き込み続ける梨田の背中を自分もしゃがんでさする。

「ゴホゴホン、ごめん。うっうがいしてくる」

梨田は、苦しそうに咳をしながらキッチンから出て行った。

相当悪化してるみたい。
苦しそう。

何度かうがいをする音が聞こえたあと、キッチンに少しげっそりした感のある梨田が現れた。

「こんなんだから、絶対芽衣にうつるぞ。俺さ、今からでも寝室に引きこもっとくからさ、おかゆとかいいから、もうゴホゴホッ帰った方がいい」

梨田は、手にしていたスプレーをテーブルに置いた。

「これ使って。手にも使えるから。ノロウィルスにも効くスプレーだってさ。頼むから、うつらないようにして」

「ありがとう。なんだか病人に気を使わせてごめんなさい」

「うー」

梨田は両手を広げて芽衣に切なそうな瞳を向けた。

「な、なに?」

「ハグしたい。キスしたい。たまんないっゴホゴホッ」

「なに?」

広げた両手の力を梨田は、がくんと一気に抜いてみせた。

「でも、ゴホッしばしの我慢だ俺」
自分の腕で自分を抱きしめる梨田。

「……」

「治るまで我慢する。さっきはごめんな。ハグしちゃって。芽衣を見たら、もうなんだか嬉しすぎてさ。うつってるかもなぁ〜ごめんな芽衣」

勝手に来た芽衣を心配して謝ってばかりいる梨田が気の毒に思えてきた。
< 95 / 112 >

この作品をシェア

pagetop