【【贅沢な片思い】】ヤツの所には行かせない!

「送れないからタクシー呼ぶよ」
おかゆのおかわりを持って行ったときに梨田が言った。


「大丈夫。電車で帰るから」


「そう? ごめんな。このお礼は、いずれ倍返しするからさ」

随分前に流行ったドラマの台詞みたいだ。使う場面が違うようにも思えて芽衣は苦笑した。




少しして、芽衣は梨田の家から帰ることに決めた。もうすることがなくなったからだ。

玄関でヒールを履いてから、芽衣を見送るために玄関へ来た梨田を振り返る。

「じゃあ…」
梨田の顔を見上げる。

優しい瞳に出会うと、なんだか胸が変な感じになって、芽衣は慌てて目線を下げた。
「帰ります」

「ああ、今日はサンキュー芽衣。嬉しかったよ」
梨田はマスクをしている。
口元は見えないのだが、その瞳は間違いなく柔らかく微笑んでいる。


「……」


「ん? どうかした?忘れ物でもある?」

何も言わないでいる芽衣を梨田は不思議そうに見ていた。

この人は一刻も早く私を追い出したいようね。来たのは迷惑だったのかもしれない。

「ん?」
モテ男は困った表情をしている。

3回目のデートは家デートにしようとか誘った割に私が家に来ても割と素っ気ない態度だった。

モテ男が素っ気ないのは、風邪のせいだからだろうか。それとも、やはり私にはそれほど興味がないからだろうか。

なるべく近くによらないようにしているのは、私に風邪をうつさない為なんだろうか。



「? 」
立ち尽くしたまま芽衣が何も言わないので梨田は、困ったような顔をしてる。

モテ男なんか大嫌い。

困った顔しても具合が悪くても、それなりに様になってしまう。

自分の方に女が気持ちを集中させることなんかモテ男にとったら、お手の物に違いない。
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