瀬名先輩は王子様
──…ガラガラガラ、
瀬名先輩が膝にノートを乗せながら、片手で社会科準備室のドアを開けてくれた。
『どんっ』
教卓にノートを置いて。
「はぁー、やっと運べた。すみません、ありがとうございました」
「よく頑張ったな」
瀬名先輩はそう言いながら、私の頭をぽんぽんしてくれた。
好きで好きでどうしようもなくなった瞬間だった。好きってこういうことを言うんだ…。
「じゃ、俺、行くわ」
このまま終わりにしたくない。私は、勇気を振り絞った。
「あのっ、名前。お名前を教えてください」
「瀬名優人。君は?」
「小松結月です」
「じゃあな、結月」
瀬名先輩は、檸檬色の風のように去っていった。