俺と結婚してくれないか
慌てて様子を見に行くと靴を脱いでる主人が居た。

「おかえりなさい!」

「...ん」

そう言うと気だるそうにリビングに入ってきた。

「夕飯...食べる?」

「...ん」

「ごめんなさい、冷めちゃってるから先にお風呂入ってきた方が良いかも...」

「...ん」

主人はそのままお風呂場に行った。

急いでハンバーグを温め直した。

主人が...帰ってきてくれた。

嬉しくてドキドキが止まらなかった。

ご飯食べないで待ってて良かった。


主人がお風呂から上がった時丁度温め終わった。

椅子に座って待ってると向かいの席に主人も座った。

「...いただきます。」

それから無言が続いた。

ご飯食べてるし当たり前なのかもしれない。

それでも目の前に主人が居て、私と2人きりなのに一緒にご飯を食べてくれるのが嬉しかった。

もしかしたらこのままこの先も一緒に居ても良いのかな。

「...おい」

「...え!...あ、な何!?」

びっくりした。
声を掛けてもらったのは何年ぶりだろうか。

「4月2日夕飯作んなくて良いから」

「...うん...分かった」

「.....。」

「.....。」

舞い上がったのは馬鹿みたいだった。

今まで1度も夕飯要らないって言われた事がなかった。

しかもその日は主人の誕生日。

...そっかあ今年は他の予定があるんだ...。

「ごちそさま」

そう言って主人は席を立った。

遠くに行ってしまう背中を見て何も言えなくなった。

『誰と会うの?』

その一言が言えたらいいのかもしれない。

『その日は結婚記念日でもあるんだよ?』

普通はこんな事を言うのだろうか。

わかんない

わかんない

わからないけど...私はそんな事を言える立場じゃない。

ここまで一緒に生きてくれたんだから。

私は主人に何一つ特別素敵な事をしてあげられた事もない。

腹がよじれるほど笑わせてあげたことも、嬉し泣きさせてあげた事も無い。

幸せにしてあげられた事なんて一切なかった。

いつ捨てられたって...文句は言えない...。

ガラッ...

リビングのドアが開く音がして前を見た。

すると出ていったはずの主人が目の前に居た。

「...これ」

机の上に何かの券を置いてみせてくれた。

「4月2日18時半に駅前に来い。」

そう言って主人は自室に戻って行った。

そこには駅前の最上階レストランの名前と優待券の文字が書いてあった。

「...作らなくて良いってこういうことかあー...」

私はその券を震える手で持ちながら嬉しくて嬉しくて...涙を沢山こぼしてしまった。
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