【短編】雨と先輩
「キミが風邪引かないほうが大事だよ。はい、ちょっとはマシになったかな」



ブレザーを渡してくれる。



「ありがとうございます」



ブレザーを受け取るときに触れた指にまたトクンと胸が高鳴る。
今日この人に何回胸をおどらせるのだろう。

こんな見ず知らずのあたしによくしてくれる3年生。
ただ彼が3年生ということしか知らない。

分かるのは、彼がとても端正な顔立ちをしていてとても優しいということ。



「あ、ちょうどバス来たね」



なにがちょうどなのかはわからないけど。
彼の言葉に道路を見るとバスがこちらに向かってきていた。

このなんとも言えない空間が終わってしまうのが寂しい。
この空間が終わればもう彼とは会うことがないのかもしれない。



「あ、タオル…」



自分の手に持つタオルは濡れていてこのまんま渡すわけにはいかない。
洗濯をして渡したいけど次に会える保証なんてものはなかった。

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