散歩道
それからまた、向きを直して歩き始めた。
後ろの方では、まだ微かにさっきの中学生たちの笑い声が聞こえる。


どうしてあんなにも笑えるのだろう。
何が楽しいのだろう。

この世に楽しいことなんてあるのかな…


大袈裟なように聞こえるけれど、今の私には何もかもがそう思える。



高校のグラウンド沿いの道路を少し歩いて左に曲がると、広めの農道に入る。
両側がたんぼに囲まれているその道は、黒のアスファルトできれいに舗装されている。
田園風景の中心に不釣り合いなきれいな道が、ほんの一年前にできたばかりの大きな道路へと真っ直ぐ続く。

私は150mほどのその道を、ゆっくりゆっくり歩いた。


近くに流れている川の音に耳を澄ませながら、ゆっくりと。
周りの風景を眺めながら、ゆっくりと。


道の中程まで来ると、私は立ち止まり、目を閉じた。
さっき濡れた瞳がまだ渇いていない。目を閉じると、すぅっと一筋流れた。



あの時と違うのは。
半年前の夏の夜と違うのは、私が一人でいるということだけなのだ。
それ以外何も変わっていない。
気持ち悪いくらいに。




あの時も私は、ここで立ち止まった。

ほんの少し前を歩く彼を見つめ、私は嬉しそうに笑っていた。

今ここに一緒にいることが夢のように、私は浮かれていたんだ。


彼はそんな私に気付くと
『麻里、早くおいで』
と笑って言った。


そんな小さな仕草も、そんな一言も嬉しくて、私は人懐っこい犬のように彼の元へ駆けた。






目を開けると、誰もいない道路が広がる。


ほらね。
誰もいない。


彼はいつだって、私のことを待っていてくれたのに…

今はもういないんだ。
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