散歩道
『やっ!!だめ!!』


とっさに出た言葉だった。

夏紀を拒否したわけじゃない。
だけど、夏紀がそこに座ってしまったら、私の記憶には誠也さんだけでなくなる。
この公園の、このベンチでの誠也さんとの思い出が、薄れてしまう気がした。


『えっ!?どしたの、麻里』

『…』


夏紀は、びっくりした顔で私を見ている。




あぁ。私は馬鹿だ…

何をするにも誠也さんが一番で。
どうしたって忘れらんない。

結局嫌いになれないんだ。
どう努力したって…


『麻里。なんか変だよ?言ってごらん?』

『うぅっ…』
夏紀の言葉に涙が出た。

今まで我慢していた全てが溢れ出した。


夏紀に話してしまおうか…
夏紀にだったら、話せるかもしれない…



そうしたらこんな苦しみも、少しはなくなるのかな…
< 5 / 36 >

この作品をシェア

pagetop