妹の恋人[完]
母さんの話によると、わき見運転の車が俺に気がつくのが遅く、ぶつかってきたらしい。

俺は自転車ごと投げ飛ばされたって。

左腕と手首の骨折。右膝靱帯をのばしたのとあとは全身の打撲だと言われた。

相手の運転手が救急車の手配をしてくれ、処置も早くできたらしい。

「今お父さんが警察と手続きとかしてるけど、相手の人が落ち着いたら謝りたいって」

常識のある人そうで良かったわとため息をつく母さん。

確かに、ひき逃げとかじゃなくてよかった、のかも。

ぼーっとする頭で、母さんの言葉をなんとか理解しながらも漠然とよかったなんて考えてる俺って。

「後で先生がいらっしゃいますから、ゆっくり寝ててくださいね」

点滴とか血圧とかをチェックして、看護婦さんが部屋を出ていく。

「もう、お母さん心臓が止まるかと思ったわよ」

学生証を見て警察から家に電話があったらしく、あわてて病院へ駆けつけたら俺は手術室で骨折の手術を受けているところだったらしい。

「処置が早くできたし、手術も成功したからリハビリすれば日常生活には問題ないそうよ」

よかったわね、と笑う母さんの横で、今だに涙を流しているカナコ。

「カナコ、泣かないで・・・」

頭をなでてあげたいけど、今の俺にはできなくて。

ただ、ただ、大切なカナコが俺のために泣いているんだと思うと、体の痛みよりも心が痛くて。
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