妹の恋人[完]
「・・・サトミ」

制服を着て、鞄をもって今にもこぼれおちそうな涙を眼にためている高橋さん。

「・・・コウヘイ君、私・・・」

そっと歩きながらそばへ来て、俺の右手にそっと触れる。

「授業、さぼっちゃった」

初めてなの、そう言って笑う高橋さんの頬を涙がそっと流れる。

「ごめん」

涙を流しながら笑顔を見せてくれる高橋さん。

俺の手はまだ思うように動いてくれなくて、その涙を拭ってあげることもできないんだ。

「さっきね、お母さんにお会いしたわ。手術したんですって?」

俺の右手を握りながら、左手の方を見ると眉をよせて苦しそうな顔をした。

「リハビリすれば治るって先生が言っていたよ」

「そうなの?よかった・・・」

自分で涙をぬぐい、笑う高橋さん。本当にごめん。

「私、毎日来るから。リハビリも一緒に頑張ろうね」

まずはゆっくり休まなきゃね?笑いながら俺の右手をなでてくれる高橋さん。

そんな彼女をぎゅっと抱きしめたいと思うけど、動かない腕ではどうにもならなくて。

母さんは高橋さんに詳しく事故のことや怪我のことを話してくれたようで、彼女から質問されることはほとんどなかった。
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