妹の恋人[完]
俺は立ち上がるとポケットから車のキーを取り出し、彼女の腕を掴んで立ちあがらせる。

「このままいける?荷物とかは?」

いつものように、やさしく彼女に語りかけて。

そんな俺の目がしらも、泣いたりしたせいか少し腫れぼったくて。

でも、今彼女を責める気にもなれないし、かといってこのまま二人でここにいるのもどうかと思う。

それなら、笑顔で彼女を送り出すのもありじゃないかなんて思って。

「え、あ、ちょっとまっててね」

きっと、彼女もうまく頭が働いていないんだろう。

別れを告げた俺が、実家まで送っていくなんて普通に考えてもおかしい。

あわてて寝室へ行き、何やら荷物を詰め込んでいる彼女の後姿が見えて。

カヨちゃんのことが嫌いになったわけじゃないけど、それでも今までのように好きかと言われるとよくわからない。

なのに、そんな彼女を親切にも送っていくなんて。

なんだか自分がやっていることなのに、おかしくなって笑いがこみあげてきた。

「はは。何やってんだか」

彼女に聞こえない程度に、小さくつぶやいてから洗面所を借りて顔を洗う。

鏡に映る俺は、どんな顔をしている?

いつもよりも腫れた顔に、無理やりの笑顔を浮かべてみるけど。

「笑顔、笑顔」

大切な弟を亡くした彼女の心は、きっといつもとは違うから。普通じゃないから。

俺が取り乱しても意味がないし。

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