妹の恋人[完]
「いや、俺は何もしてないよ」

この状況で、俺の口から失恋の説明をしてもいいものか迷いつつも、それでも俺が泣かせたと思われるのも困るし。

かといって、失恋した理由は母さんには言えるわけもなくて。

「お母さん~」

泣きながらも、彼と別れたことを母さんに伝えたカナコ。

母さんは、理由を聞くこともなく、やさしくカナコの頭をなでて落ち着かせていた。

「カナコ、こんなときはやけ食いよ!」

泣きやんで顔を洗ってきたカナコに向って、キッチンに立っていた母さんがそんなことを言い出して。

「そうだよね、食べて元気にならなきゃ!」

二人でキッチンに並び、なんだか沢山の料理を作っていた。

夕飯前に帰ってきた父さんは、テーブルの上に並んだ沢山の料理を見て何かの記念日を忘れたのかとドキドキしたようだけど。

皆がびっくりするくらい食べたカナコは、寝る前に俺の部屋へ来て。

「おにいちゃん、お母さんに言わないでくれてありがとう。私もう青木君のことは忘れるね」

彼氏なんて居なかった。彼は、ただの友達だったのなんて、まだ泣きそうな顔をして笑って。

なんだかすごく切ないけど、自分でこうして立ち直ろうとしているカナコを応援することしかできなくて。

頭をくしゃくしゃっとなでてやった。
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