妹の恋人[完]
「浅野君は部活が忙しいから」

毎日朝夕練習に明け暮れている俺は、こうして寄り道をするのも高校生になってから初めてのことだった。

他のクラスのことも、学校以外のことも何も知らない俺。

こんな俺と一緒にいたら、高橋さんにあきれられるんじゃないだろうか?

コーヒーを飲みながらなんだか不安になってきてしまった。

自分がとてもつまらない人間に思えてきて、落ち込むのと焦るのとで気持ちがぐちゃぐちゃする。

「部活、楽しい?」

言葉数の少ない俺に気を使ってか、よくしゃべる高橋さん。

黙ってコーヒーを飲んでいた俺の顔を覗き込むようにして、問いかけてきた。

「うん、楽しいよ。ワタルともなんていうか、気が合うというか」

うまく言えないけど、一緒にいてお互いを高めあえる存在って俺にとってはワタルのことを言うんだなと思う。

そう伝えると、うれしそうな顔をする高橋さん。

「私にとってワタルは、弟のような存在なの。今でこそあんなに大きいけど、中学まではとても小さかったのよ」

ふふっと懐かしそうに話をする高橋さん。

そんな幸せそうな顔をして、俺以外の男の話をするんだ。なんだか見たくないな。

「いつも泣いてばかりで、私にべったりくっついていたわ」

あ、でもこれは内緒ね?と首をかしげて可愛く笑う。

コーヒーを持っていた手をカップから離し、机の上にある高橋さんの手を握った。
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