アレキサンドライトの姫君

-3-

明け方、ディルクが身支度を整えて自室へ戻ってからもエーデルは寝付くことなど出来ず、ただ放心状態のまま寝台の上でへたり込んでいた。
ようやく解放され虚脱感と倦怠感に蝕まれた身体は思うように動かず、呆然とその場から動けずにいる。
帷帳で四方を覆われた寝台の上。
その隙間から微かに差し込んでくる陽射しに、ようやく時刻が朝だと知る。

「おはようございます、エーデル様。お目覚めになられていますか?」

いつの間に入ってきたのか、ミーナの声が近づいてくる。
それでもエーデルは身動ぎ一つせず、物音すら立てられない。

「エーデル様、失礼します」

静まり返った部屋。返事もないことから、ミーナはまだエーデルが就寝中だと思ったらしく、声量を下げながら静かに帷帳を少しだけずらして中の様子を確認するように覗き込んできた。

「エ…、エーデル様っっっ!?」

その瞬間、驚愕に目を見開いたミーナが素っ頓狂な声でエーデルの名を呼んだ。
無理もない。
全裸のまま寝台の中央に座り込んでいるエーデルの肌には多数の鬱血があり、気怠げな表情に虚ろな瞳、乱れた寝具には迸りが彼方此方に残されていた。
この状況を見れば、ここで何が行われたのかは一目瞭然だった。

「ミーナ…」

一晩中喘ぎ続けたため声が枯れている。

「さぁ、エーデル様、こちらに」

ミーナの助けを借りてようやく寝台から降りたものの、下肢が戦慄いて上手く立つことができない。腰も重いし、下腹部の鈍痛と違和感が歩行を困難にする。

「あ…」

立ち上がったことにより中から溢れ出てきた白濁液が内腿を伝い、その不快感と行為の痕跡に身悶える。

「エーデル様はどうぞ浴室に。その間に私は寝具を新しくしておきますので」

肩に絹のローブが掛けられ、ミーナの手を借りながら壁伝いにエーデルは隣接した浴室へとゆっくり進む。
豊富な湯量を誇る上質な湧き湯が引き込まれた浴槽には常に湯が張られていていつでも入浴が可能である。
ローブを無造作に脱ぎ捨て、エーデルは心身が覚醒するまで浴槽にずっと身体を浸していた。
< 29 / 50 >

この作品をシェア

pagetop